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「まだ仕事してんのかよ」
かけられた声にふりむくと日樫くんが居た。時計の針はもう七時を指している。
「あなたこそ、こんな時間まで」
「営業先で長話する人につかまってさ。やっと帰って来たところ」
言って、彼は私のパソコンの画面をのぞき込む。
「それ、金本さんの仕事だろ」
「今日はお母さんが来るんだって」
「あいつ駅前で仮装して友達らしき人と歩いてたぞ」
「そういうこともあるよ。たまには旧交を温めるのも大事でしょ」
「しょっちゅう旧交を温めてる気がするけど」
「……なんで水差してくるかな」
私はジト目で彼を見る。せっかく自分をごまかしていたというのに、本当のことを言わないでほしい。
「お前、ほんと優しいよな」
「ほっといてよ」
「そんなお前にご褒美をやる。メシおごるよ」
「えー?」
半信半疑の声を上げながら、私の胸の中は大騒ぎだった。
彼と一緒にごはんに行ったことなんてない。どうしよう、どうしたらいい?
「信じてねえな」
「連れてってもらえるのは牛丼かファーストフードか、考えてただけ」
どきどきしてるのを悟られないように平静を装って答える。
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