トリックオアトリートな日樫くんがあまくなる夜

6/16
前へ
/16ページ
次へ
「まだ仕事してんのかよ」  かけられた声にふりむくと日樫くんが居た。時計の針はもう七時を指している。 「あなたこそ、こんな時間まで」 「営業先で長話する人につかまってさ。やっと帰って来たところ」  言って、彼は私のパソコンの画面をのぞき込む。 「それ、金本さんの仕事だろ」 「今日はお母さんが来るんだって」 「あいつ駅前で仮装して友達らしき人と歩いてたぞ」 「そういうこともあるよ。たまには旧交を温めるのも大事でしょ」 「しょっちゅう旧交を温めてる気がするけど」 「……なんで水差してくるかな」  私はジト目で彼を見る。せっかく自分をごまかしていたというのに、本当のことを言わないでほしい。 「お前、ほんと優しいよな」 「ほっといてよ」 「そんなお前にご褒美をやる。メシおごるよ」 「えー?」  半信半疑の声を上げながら、私の胸の中は大騒ぎだった。  彼と一緒にごはんに行ったことなんてない。どうしよう、どうしたらいい? 「信じてねえな」 「連れてってもらえるのは牛丼かファーストフードか、考えてただけ」  どきどきしてるのを悟られないように平静を装って答える。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加