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「ごめんなさい、細波さん。何度言われても、私、貴方とはお付き合いできません」
神田芽生がそう言って頭を下げるのに合わせて、腰まである彼女のさらさらストレートの黒髪が、スルリと肩をすべって顔を覆い隠した。それと同時、プルンと揺れた胸は、一五五センチあるかないかの芽生にはちょっぴり不釣り合いに大きくて、そのギャップからだろうか。胸目当ての男性からよく絡まれてしまう。
芽生の勤め先のファミリーレストラン『カムカム』の常連客、細波鳴矢からの交際申し込みは一度や二度ではない。何度断っても懲りないバイタリティを思えば、何もこのたわわなバストだけが目当てではないのかも知れない。
でも、だからと言って好きになれそうにない相手からのアプローチほど面倒なことはないのだ。何度断ってもしつこいぐらいに言い寄ってくる細波に、芽生は正直辟易していた。
「ねぇ芽生ちゃん、何で僕じゃダメなの?」
細波は大企業『さかえグループ』の社長室付きのスーパーエリートらしい。一番最初に交際を申し込んできた際、頼んでもいないのに『さかえグループ 社長補佐 細波鳴矢』と書かれた名刺を差し出されて、つらつらと自らの価値――社長の遠縁だのなんだの――について本人から説明された芽生は、残念なことにそのことを知っている。
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