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「わからない。人の心って私たち天使が思っている以上に複雑だから。でもーーー」
デイジーさんが私の手に触れる。あったかい……。そういえば、風邪で寝込んでしまった時にお母さんや草太がよくこんな風に手を握ってくれたっけ。
「今までの深月さんが嘘を吐いて生きていたと誰も信じていないと思う。人の死は誰だって悲しくて当然なもの。だから、最期に嘘を吐かなくてもいいんじゃないかな?」
胸が苦しい。体が痛いのに声を出して泣いてしまう。心が叫んでいる。みんなに本当に伝えたいことがあるんだって叫んでいる。
「デイジーさん、お願い事を聞いてもらってもいい?」
「うん。もちろんだよ!」
デイジーさんはニコリと笑う。私は叶えてほしいことを口にした。
数時間後ーーー。
私の病室の中では、バタバタと医師や看護師さんが忙しなく動き回っている。私の死がもうすぐそこだからだ。
「心拍が下がってきました!」
「早くご家族に連絡を!」
目がもう開かなくなってしまった。なんだか眠い。少しずつ声も聞こえなくなってきた。
でも頭の中では思い出が次々に蘇ってくる。これが走馬灯ってやつか。楽しかったこと、嬉しかったことばっかりが浮かんでくる。私、幸せだったんだ……。
「花岡深月さん、あなたの魂を天界へと導きます」
そんなデイジーさんの声を最後に、私の人生は幕を閉じた。
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