天使との二十四時間

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天使との二十四時間

開け放たれた窓から、ふわりと甘い香りが漂ってくる。ベッドの上で目を閉じたまま、この香りは金木犀の匂いだとわかった。瞼が重い。全身が重い。そんな中でこの甘い香りは、私がまだ生きているのだと実感できる。 真っ白な病室が私の居場所となってどれくらい経っただろうか。ここに入院した当初は窓から景色を見ることができたが、今ではもう体を起こすことは難しい。 ここは緩和ケア病棟。末期癌の患者が「治療」ではなく「苦痛を和らげる」ために入院するところだ。ここに入院している人はみんな、死へと近付いている。私、花岡(はなおか)深月もその一人だ。 私に診断された病名は子宮頸がん。二十代や三十代で発症するケースも多い。 生理中じゃないのに血が出て、膿のようなおりものが出て、明らかに体はおかしかったのにプロジェクトリーダーとして仕事を優先していたらもう手遅れになっていた。今はこうして静かに死を待つ一人となってしまった。 最初は死ぬということが怖かった。でも、今は何も感じない。むしろこの痛みや苦しみから解放されると思うと安心してしまう。 (ちゃんと「お別れ」もしたから、何ももう思い残すことはない……)
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