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芽生え始めた恋心
その日、所用で人間界に来ていたアルテミシアは、
いつもの花畑で寝転んでいた。
いや、所用というのも言い訳かもしれない。
ヴァイスにまた会えたらいいな、そんな気持ちも
少しだけあった。
「……また会えたね」
その声に上半身を勢いよく起こすと
ヴァイスが優しい笑みを浮かべて立っていた。
「ヴァイス……」
春風が優しくふたりの間を通り抜け、
ヴァイスの黒髪が揺れた。
思わずドキッとしてしまう。
アルテミシアはそれを
誤魔化すように視線を花々に
向けた。
「ええ。……そうね。
そういえば名前を名乗っていなかったわ。
わたしの名前はアルテミシア。
よろしくね」
にっこりと笑って手を差し出すと
ヴァイスはその手を握る。
「アルテミシア……綺麗な名前だ」
「そう言われちゃうとなんだか照れちゃうわね」
しばし静寂が流れ、ふたりは同時に口を開いた。
「ねぇ」
「あの……」
お互い先の言葉を譲り合い、アルテミシアが
根負けして言葉を紡ぐ。
「また、会えるかしら?」
ヴァイスの表情が和らぎ「ああ」と
柔らかい声音で頷いた。
それから、ふたりは
毎日のようにこの花畑で過ごしていた。
ある時は夜空の星々を共に数え、
黄金色になった草原を共に歩き、笑い合う。
ヴァイスは当初思っていたよりも
優しく、気遣いの人であった。
表情が乏しい彼が自分の前でだけ
笑ってくれると嬉しかった。
アルテミシアは隣で寝転ぶヴァイスと
見つめ合い、笑い合った。
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