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「やっぱり、だめですの……?」
不安を悟られるなど、令嬢失格だと思いながらも、フロリアナはうなだれた。
「お給料を払えれば、貴族ではなくなっても、ラスはわたくしの執事でいてくれるのではないかと思っていましたわ。でも、やっぱりだめなの……?」
川べりでの生活を楽しんでいたフロリアナだが、ひとつだけ心配があった。
寮長が言ったように、フロリアナはもう執事を雇えるような身分ではないのだ。
「お嬢さま……!」
ラスの大声に、フロリアナは弾かれたように顔をあげた。
彼は大層慌てているようで、目を白黒させている。
「申し訳ないことをいたしました。お嬢さまがそんなふうにお悩みとは……。
お嬢さま、私はあなたの元を離れません。私がお仕えするのは、これまでも、これからもフロリアナお嬢さまただおひとりなのですから」
「もう『お嬢さま』じゃないのに……?」
「私にとってはお嬢さまですよ。それとも、これからは旦那さまを通さない分、ご主人さまとお呼びしたほうがよろしいですか?」
「もちろん、お嬢さまでよろしくてよ。はい、じゃあこれをちゃんと受け取ってね!」
紅茶の缶を捧げ持つフロリアナの手は、震えていた。
銅貨のぎっしり詰まった缶は重くて、実は先ほどからずっと、早く受け取ってくれないかなあ、と思っていたのだ。
ところが、それはつるりとすべって、けたたましい音とともに、ぴかぴかに磨かれたラスの革靴の上に落ちた。
一瞬固まったあと、なにかを堪えるかのようにぴくりと笑ったラスが、缶を拾い上げる。
「お嬢さま、ご慈悲に感謝申し上げます……。それではこれは、私がお預かりしますね」
こうしてフロリアナは、ラスとこれからも一緒にいることを誓い合った。
紅茶の缶は、その証である。
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