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婚約解消 1
「もう、赤い色にはうんざりしているんだ」
フロリアナは、その言葉を聞いて紫色の目を見開いた。
紅の瞳を持つ王太子が、自虐の気持ちでそんなことを言いだしたのだと思ったからだ。
「まあ、殿下。悲しいことを仰らないで。わたくし、殿下の目の色はとっても綺麗だと思いますわ」
婚約者である王太子が、悲観のあまり目玉をくりぬいてしまわないか、本気で心配したフロリアナだったが、嘆いた本人は呆れたようにため息をついた。
「フロリアナ、どうして君は自分のことを棚に上げるんだ。私が言いたいのは、君の髪の色だ。目がちかちかする」
「あら、わたくしのことでしたの? まったく気がつきませんでしたわ」
「私の周りにいるのは、赤い色を持つ者ばかりだ。もう飽きた」
「それはだって……、赤は王族の色ですもの。仕方がないではありませんか」
リコリダ王国の王族は、髪や瞳に赤い色を宿して生まれる。
フロリアナは公爵家の令嬢だが、母親が降嫁した王女だったために、赤い髪を引き継いだ。
二人の立つ貴族学院の中庭には、フリージアが咲き誇っていた。
赤に黄色、白に紫。
色とりどりの花が、まだ肌寒い風に揺られて、ほのかに甘い香りを漂わせている。
時刻は昼過ぎ、学院では先程、修了式が行われたばかりだった。
フロリアナは十六歳、春休みが明ければ、学院の二年生になる。
王太子は、フロリアナの一学年上だ。
フロリアナは、寮に帰ろうとしたところを王太子に呼び止められて、中庭へと連れてこられたのである。
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