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新しい出会い 1
フロリアナの部屋の扉が、どんどんと叩かれたのは、翌日の早朝のことだった。
寝起きの悪いフロリアナはまだ寝ぼけまなこで、ベッドの中で眠気覚ましの紅茶を飲んでいた。
「こんな時間に、どなたかしら」
来客から見えないように、ベッドは繊細な彫刻が施された衝立で隠されている。
「お嬢さまはそのまま、お待ちください」
がちゃり、とラスが扉を開ける音がする。同時に寮長の声が聞こえてきた。
「フロリアナ嬢には、これから部屋を移っていただきます。新しい部屋は、最上階にありますから、早く移動してください」
「最上階……? それは屋根裏部屋のことではありませんか?」
驚いたようなラスの声が、次第に低くなる。
「おそれながら申し上げます。主人が入学する際、セレン公爵閣下は卒業までの学費とともに、貴学に莫大な寄付をいたしました。
それは、主人が学院生活を快適に過ごせるようにと願ってのものです。なにがあろうと、その事実に変わりはございませんでしょう」
ラスの地を這うような声に、寮長は一切、臆した様子を見せなかった。
「それがなんだと言うのです。もはやフロリアナ嬢は平民と同じ。
誇り高き貴族学院に在籍できるだけでも、ありがたいと思いなさい」
部屋に沈黙が落ちた。フロリアナは衝立からひょっこり顔を出すと、明るく言い放った。
「よろしくってよ。新しい部屋がどんな所なのか、楽しみですわ」
フロルハウスに慣れたフロリアナにはちょうど、この部屋が広すぎて居心地が悪く感じられていたところだ。
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