プロローグ

1/1
前へ
/68ページ
次へ

プロローグ

 フロリアナは目を細めた。  穏やかな春の朝、王都の景色はわずかにかすみがかっているようだ。  ただ、眼前の川面だけが、日の光を弾いてきらきらと輝いている。  川べりに座り込むフロリアナの横では、一日中消えることのないたき火が、ぱちぱちと音を立てて燃えていた。  フロリアナはすがすがしい空気を胸いっぱいに吸い込んで、うっとりとため息をつく。  大自然を前に、温まることができるなんて、なんという贅沢なのだろう。  実家の公爵家よりも、この国の王宮よりも、この川べりはよっぽど恵まれているではないか。  振り返れば堤防の下に、無数のたんぽぽが咲き誇っていた。  フロリアナは立ち上がると、そのうちのひとつに手を伸ばす。  川にかかった橋の下には、現在のフロリアナの住まいである、フロルハウスが建っている。  木の板でできたフロルハウスに、たんぽぽの花を飾ったら、可愛くなるに違いない。  しかし、たんぽぽのぎざぎざの葉に手を触れて、フロリアナは手を止めた。  いま、咲いている場所が、たんぽぽたちのお家なのだ。  お家がなくなってしまったら、とっても大変なことを、フロリアナは身をもって知っている――。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加