9人が本棚に入れています
本棚に追加
「モテギさん、何なのですかこれは」
カウンターに並べられた五冊の本。
そのうちの一冊を、石井先生は取り上げた。
「「百年の孤独」」
「は、はい」
「……「を、代わりに読む」、と」
「はい……」
「ふーーーん」
先生はぱらぱらと適当にページをめくった後、ぽん、と素っ気なくカウンターの上に本を置いた。まるでその本に関する一連の行為が、くだらないことであるかのように。
「モテギさん、何やってるんですか。僕はあなたに期待しているんですよ? 貸出数において校内一位を誇るモテギさんこそ、文学を司る若者になれるのではないかと。それなのに小説を誰かに代わりに読んでもらうなど……「百年の孤独」ぐらい、自分の頭で読みなさい。およそ文学は、文学に限らず芸術というものは、個々人の心の鏡に映し出されたものがすべてなのですよ」
「いや、あの、いや、あの」
返答に困った私は結局、
「……すみません」
と、なぜか謝ってしまった。
「分かれば、よろしい」
先生は言いたいことを言い切って、満足げにうなずいた。
「そんなモテギさんのために、先生が「百年の孤独」本体のほうも手配しておきましたので」
ピッ。
最初のコメントを投稿しよう!