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「ダリの作品をご覧になって、何か
お感じになった事等ございますか?」
どうも僕はこの作品を見ながら、ずっと...
微動だにしていなかったようだ。
すうっと、横に立った女性の優しい声に
僕は少し驚き、顔を女性に向けた。
そこには、美しい横顔をしたミューズが
IDカードを首からぶら下げ立っていた。
一瞬、時間は止まり
僕はそのミューズに心を奪われてしまった。
「ダリのミューズはガラ夫人だった
のだろうな?と思って見ていました」
「そうかも知れませんね...あっ⁉︎」
女性は慌てて、僕の方へ身体を向き直すと
IDカードを見せながら静かな声で言った。
「失礼しました。
わたくし、当館の学芸員をしております
石川華奈と申します。
熱心に見ておられたので、ついお声を
掛けてしまいました。
どうぞ、ごゆっくり御鑑賞下さい」
ここでさよならをしてはいけない!
本能がポーッと見惚れる僕に喝を入れた。
一礼してその場を去ろうとする彼女に
「あの....」と呼びかけ
「私は、東京から出張で来ていまして
こちらの美術館には初めて伺いました。
小澤裕之と申します
もし宜しければ、他の作品の案内を
お願い出来ませんか?」と、切望した。
女性は、一瞬驚いた顔をしたが
直ぐに柔らかな表情を浮かべて
「わたくしで宜しければ...
ご案内させて頂きます」と返事をした。
後で聞いた話では、お客様の要望があれば
解説する事も有りなのだそうだ。
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