その本は貸し出し中

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 母親は嬉しそうに、静かに目を閉じて横たわっている女性に声をかけた。ここに寝ている女性が探していた今野花菜なのか、大和と飛鳥は目線を逸らすことができなかった。彼女は、今野花菜は静かに目を閉じたまま、まるで眠っているように見えた。その姿は、大和が予想したように色白で細く、長い黒髪の綺麗な女性だった。ただ、その表情はどことなく苦しく、つらそうに見えた。  そして、そのベッドの横にある小灯台の上に、目的の本が置かれていた。『かくれんぼ』とタイトルが書かれた、ところどころ擦り切れたり、破れたりしている本だった。 「これだ……」  大和がその本を手に取りながら呟いた。 「花菜はね、昔からおとなしい子で、家でも本ばかり読んでいる子だったわ。事故に遭ったあの日も、花菜は公園の入り口のベンチに座って本を読んでいたの。そこにハンドル操作を誤ったトラックが歩道に乗り上げてきてね。本を読んでいた花菜はトラックに気がつくのが遅れて、撥ねられてしまったの。そのとき読んでいた本がそれなのよ。だから、もうボロボロになっちゃってって」  大和と飛鳥は『かくれんぼ』の表紙を見つめたままでいた。 「花菜さんは、この本、最後まで読めたのかな?」 「どうかな、トラックに気が付かないくらい面白いところだったんじゃないかな」 「だとしたら、続き、気になってるよね」 「ああ、そうだな」
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