その本は貸し出し中

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 二人は母親にことわり、ベッドの傍にあった丸椅子に腰を下ろし、『かくれんぼ』を朗読し始めた。物語は子どもたちがかくれんぼをして遊んでいるが、一人だけ見つからないまま夜になって、他の子どもたちがみんな帰ってしまうという内容だった。読み進めるにつれて、その内容には不思議な雰囲気が漂いはじめていた。どこか寂しさや孤独を感じさせる描写が多く、かくれんぼという遊びが、まるでいつまでも終わらないような感覚が広がっていた。そして、最後の一文が近づいてきた。 「みーつけた」とおそらくそう書かれていたであろう場所は、破れていてはっきりとは読むことはできなかった。その瞬間、飛鳥はふと何かを感じ取った。そして、大和と目を合わせると、二人は同時に声をそろえた。 「花菜、みーつけた。」  その言葉が静かな病室に響いた瞬間、今野花菜の目がゆっくりと開かれた。 「……誰?」  今野花菜がかすれた声で呟いた。大和と飛鳥は驚き、言葉を失った。次第に花菜の目が焦点を結び、母親の姿を捉えた。 「ママ、なんで泣いているの?」  今野花菜の母親は、大和と飛鳥がいるにも関わらず、目覚めた娘の手を握りながら号泣していた。   「ずっと暗闇の中にいた……」  花菜はゆっくりと話し始めた。 「誰もいなくて、ひとりぼっちだった。まるでこの物語に出てくる、誰にも見つけてもらえなかった子どもみたいに。だけど、突然、声が聞こえたの。『みーつけた』って」
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