その本は貸し出し中

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「先生、借りてた本を、あれ?」  大和(やまと)は、元気よく図書室のドアを開けようとしたが鍵が掛けられており、ドアを開くことはできなかった。 「まだ先生は来てないよ」  大和は声のした方に目線を向けると、体育座りで図書室の壁に寄りかかる飛鳥(あすか)の姿があった。 「あ、飛鳥。何しにきた」 「何しにもかにしにも、図書室なんだから本を読みにか、返却しにきたか、小説を借りにきたかしかないでしょ」 「たしかに」  中学三年生の大和と飛鳥は、図書館にある全ての小説をどちらが先に読み終えるかを競っていた。二人は幼馴染であり、また負けず嫌いでもあった。互いにライバルだと思い、事あるごとに競い合い、男女の垣根を越えて切磋琢磨してきた仲だった。二人とも勉強でも、スポーツでも、何をするにも一番を目指していた。そんな二人が最後の勝負に選んだのは、どちらが先に学校の図書室にあるすべての小説を読み切るかだった。さすがに図鑑や参考書など興味を惹かれないジャンルは避けたかったため、小説だけとルールを決めたのだ。学業も競い合っていたこともあり、二人とも県内有数の進学校に余裕で合格できる学力だったため、高校受験を控える十一月でもこうして全ての小説を読むというゲームを続けられていた。静かに、そして少しずつ迫ってくる卒業の足音を聴きながら、二人はすでにほとんどの小説を読破していた。残るはあと一冊。この勝負の明暗を決める運命の一冊は、奇しくも同じ本だった。しかし、その一冊こそが問題だった。
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