2 決勝前夜

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2 決勝前夜

 夕方のファミレスで姫川が、ドリンクバーのコップを掲げた。 「それじゃあ明日の試合をお互い頑張ろうね。良いゲームにしましょう」  テーブルを囲む六名がコップを触れ合わす。プラスチック音が鈍く響く。俺は不思議な気持ちで姫川をみる。小柄だが大きな瞳と無邪気な笑顔。身体から柑橘類の香水がただよう。  決勝会場が都内ホテルであるため、地方高校生である俺たちはそこに前泊する。そして姫川が、同じく泊まっていた対戦相手を食事に誘ったのだ。このイケメンの辞書には物怖じ、という言葉はない。 「じゃあ僕から皆に紹介するね。(すみれ)女子高校の灰塚(はいづか)さん達。三つ子なんだって。長女の(あい)さん。次女の(まい)さん、三女の三依(みい)さん。端正なお顔が似ているでしょ」  姫川が手のひらを彼女達に向けて、テーブルの右から順に名前をいう。  すっと通った鼻筋にシャープな顎、女優のような小顔。確かに顔立ちは似ているが、服の好みはそれぞれ異なっていた。  ショートカットの三女はボーイッシュ。  髪が顎下にかかる程度のボブの次女は、薄桃色のブラウスを着ている。  そして黒い長髪を胸のあたりまで垂らす長女の愛は、真新しい白シャツを着こなし、タイトな黒ズボンがすらりとした脚に似合っていた。  俺も席から立ちあがり、皆を紹介する。 「こっちはチームリーダーの俺、岡山優斗(おかやまゆうと)。あと小野要(おのかなめ)姫川貴志(ひめかわたかし)だ」    次女の舞が店員を呼ぶ。シーザーサラダに山盛りポテトフライ、ピザなど。皆で取り分けられるものを流れるように注文した。  その後は自然と、互いの共通点である【VSおとぎ話】の話になった。これから対戦する相手なので、自分らの能力はあかさずに戦闘の思いでを語りあう。  こちらが苦戦した相手として『浦島太郎』の話をすると、三姉妹は『眠り姫』の話をした。城を舞台にした戦闘だそう。彼女らはあっさりと一人目は倒して、残り二名を食堂ホールに追いつめた。  残った二人は『眠り姫』と『マッチ売りの少女』だった。『眠り姫』は部屋奥の洋風ベッドで眠りこけている。  すると、マッチ売りが『眠り姫』にキスをしたのだ。  童話のとおり、彼女は目を覚ました。 「あの時は大変だったよ。おっとりした子が食堂を所狭しと、縦横無尽に暴れまわって。捕まえるのが大変だったもの」  三女の美依が身振り手振りをまじえながら、戦況を説明する。当時を思い出したのか青い顔だ。 「普段大人しい子が怒り出すと本当に怖かったわね。キャーキャー叫んじゃった。でも魔女の呪いで百年寝るねぼすけが、すぐ起きちゃうのは今も腑に落ちないなあ」  次女の舞が頬を膨らませる。
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