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3 決勝戦
翌朝、俺達はホテルの試合会場であんぐりと口を開けていた。
収容人数は千人を優に超えるだろう。設置されたプロジェクターは、巨大スクリーンに鮮やかな映像を映す。どこのコンサート会場だ。
小綺麗なスーツに身を包んだうちの教員が、背筋を伸ばしている。相手チームの女教師と固く握手をかわす。緊張感のあった顔つきが、一気にだらしない笑顔に。伸ばしていた背筋がふにゃりと歪み、そのかわり鼻の下が伸びた。
普段、男子高校生としか接していないから感無量なのだろうけど、なんだかなあ。
「よくやった、お前ら。思い残すことはない。おとぎ話部を指導してきて良かった」
「先生、俺達はこれから戦うんですよ」
と俺は口を尖らせる。
観客席の半分を、灰塚三姉妹の描かれた団扇をあおぐ女子高生らが埋めている。残り半分はうちの学生に用意されているのだが、三割埋まっているかいないかだ。
「愛様―、頑張って」という黄色い声援がけたたましい。
対して我々チームへ、美しいとは言いがたい低音の応援が地を這ってくる。
舞台上の六名にVRゴーグル等の機器が渡され、各々がゲームスタートの号令と同時に装着した。
俺の視界にシャンデリアのぶら下がった、天井の高い洋室が浮かんできた。
すぐに部屋のなかを見回す。小野も姫川もいない。片っ端から他の部屋を開けて、仲間を探そう。合流してから三姉妹の誰かと戦えればよい。
廊下をでると先に階段があり、この建物が複数階建てだと分かった。恐らくここはシンデレラ城だ。
隣室の扉を開けるが、キングサイズのベッドがあるのみ。姫川がそこで寝ていることもなかった。次の部屋に足早に移動する。
扉を開けて、シンデレラ城の六部屋め。
中にはいると、俺の右脛に激痛が走った。膝を抱えて床を転げる。
「ああ岡山か。悪い」
隅にある化粧台の裏から、小野のツンとした短髪がのぞく。奴の妖精に脛を強打されたのだ。小型のハンマーを持つレプラコーンは何が嬉しいのかダンスを踊っている。
「誰か確認してから攻撃しろよ」
と俺はうめく。痛みを耐えて脛をさすりながら、椅子に腰をかけた。
小野に今後の作戦を提案する。
「姫川を探して他の部屋を確認しながら、一階に降りていこう。一階だったら広間や食堂ホールとか広い部屋があるんじゃないか。そこなら思うさま、戦えるだろう」
「さすがリーダー。レプラコーンの動ける範囲も広くなるし、桃太郎も剣を存分に振るえるってわけだ」
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