3 決勝戦

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 妖精が帰ってくる間に、小野に部屋の構造を聞く。  姉妹と姫川のいる礼拝堂の奥まで、三十メートル程度。中央に広めの通路があり、その左右に背付きの長椅子が十列ずらりと並ぶ。部屋の両脇にも狭いが通り道がある。 「部屋に侵入したら、まず最後列の椅子の背に隠れよう。俺は右、お前は左。両端の通路をばれないように進む。三列目にたどり着いたら、能力を発現して敵に突進だ」  レプラコーンが戻ってきた。収縮自在の身体を、屈んでいる俺達と同じ大きさにする。  妖精は絶望的な状況だと言うように、眉目をよせて左右に首をふった。  扉を少し開けて、俺と小野は室内に滑りこむ。  長椅子の裏に全身をおさめた。  長女の愛は正面入り口を黙って睨み、次女の舞と三女、美依は話に興じていた。 「残り時間が十分を切ったけど、まだ来ないね」 「レディーを待たせたら駄目よね。そう言えば美依。最近、勝手に私のヘアオイル使ってるでしょ。あなたのくせ毛だと、使っても意味無いんだって。勿体ないから、やめてよ」  中腰にかがんで移動している俺達は、三列目の椅子裏まで来た。  互いに目くばせして、中央通路に躍りでる。まず意気込む長女を負かせば、あとの二人の戦意はそがれるだろう。  俺達は愛に向かって前進した。彼女は驚きで目を見開く。  だが、美依が俺達と長女のあいだに割りこんだ。小さな唇から『ガラスの靴』という言葉が発せられる。俺と小野のスニーカーが、透明なハイヒールに変化した。犬と猿にもぴったりサイズのガラスの靴があてがわられる。  とんでもなく歩きづらい。  だが、俺達は千鳥足になりながらも、キジとレプラコーンで愛を上空から狙う。  そこに次女の舞が両手のひらをキジとレプラコーンに向け、『午前0時』と叫んだ。  ‶魔法の解ける午前0時か〟  俺は自分の耳を疑った。途端、キジと妖精は消えた。猿と犬もいなくなり、あまつさえ俺の刀まで無い。ガラスの靴も同時に消えさったが、足がもつれる。そこに追い打ちが来た。  愛が『かぼちゃの馬車』と唱えたのだ。  驚くほどの勢いで、デカいかぼちゃの馬車が俺と小野をはねた。頭部は問題なかったものの、両手両足にダメージ判定がでて、身体を自由にできない。ゲームルールで一分間は動けない。  騙された。特化型だ!  長女の愛だけが『シンデレラ』ではなくて、三人全員が『シンデレラ』だったんだ。食事会でのあの質問は、うちのチーム能力を一つ知りたいというだけではなかった。本来の狙いは、俺達に《シンデレラが一人だけ》で、他の能力の持ち主もいると思わせたかったのだ。
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