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「えっ_そんなはずないんですけど…。」
突然異世界のプリンセスでした、などと言われては困る。まあ中学生になってからは、ライトノベルというものも見るようになってきたしそういう展開があるのかもしれない、自分の地味な人生に終止符を打つ時が来るかもしれないと思うときもあった。だが、所詮自分は一億人の中のひとりであるのだった。そんなはずないのだ。
「んなこと言ったて無駄だぜ、マジなんだから。なっ?」
「…赤髪先輩、それはそうですけど。とりあえず俺のパソコンに触れないでくれますかね。」
「ほらな?」
赤髪のヤクザがアンティーク調の昔ながらの机_おいているもの以外は_に手を置きながら青髪の男の子に話しかけた。このこもいたのか、あまり存在感がないのか気配を隠しているのか、とにかく全然きずかなかった。というか、この人赤髪先輩っていうんだ…。親しい仲なのらしいが、話が完全に矛盾している。
「えっと…この人は?」
「ああ!そういえばボク達自己紹介してなかったじゃん!気づかなかったあ。まあ健のことはほっといていいでしょ、名前わかるし。」
「ほっておくなよ、てめえ」
オレンジ色の髪をしたわんこくんがさっきの仕返しだろうか、皮肉そうに赤髪のヤクザを蹴散らしてくる。対するヤクザも元気にけんかを売っているようだ。まあオレンジ色の髪のわんこくん(略してわんこ)が言ったこともわかる。(赤髪ヤクザの件以外で)私達はまだ自己紹介を果たしていないのだ。
「とりあえず…自己紹介してくれませんかね?」
私が二人の喧嘩に口を挟む。
「ああ、そうだったねぇ。こいつのせいでその話がナシになってしまうところだった。じゃ、ボクからでいいよね!」
そして、彼らは自らの紹介をポンポンっとしていった。
「ボクの名前は、朱野蓮!好きなものは剣道と女の子。嫌いなものは野菜!よろしくねぇ」
「オレの名は赤髪健。好きなものは武道、嫌いなものは特になし。よろしくお願いするぞ!」
「俺の名前は青島悠太。好きなものはパソコン、嫌いなものはパソコンを毛嫌うもの、アナログ。よろしく」
そして、あとは私だけとなった。彼らがなんだか私を見つめてくる。こんなことではドキドキしない。というか自己紹介はこれまで14回以上してきたのだから。でも…なんだか胸が暑い、これはなんだろう。
「と、とりあえず!私の名前は華乃優樹菜。好きなものはホルンと吹奏楽部、嫌いなものは音楽が嫌いな人!よろしくおねがいいだしまず!」
ゼハーゼハー。勢い奥喋ってしまったせいか、走ったあとのような息切れをする。やばい。噛んでしまった。というか、なんでこの人達の前ではドキドキしてしまうのだろう。そう疑問に思って、彼らの顔をもう一度見てみた。そして、ふと気付いてしまった。この人たちは学園のプリンスとも呼ばれる人たちだと。
「あ、あなた達って…まさか学園のプリン、す?」
「ああ、そうだがどうかしたのか?」
「んー?どしたの、優樹菜ちゃん?」
「?」
彼らはなんのことやらと言わんばかりにとぼけた。
学園のプリンスとは、この私が通っている学園でとても美形な男たちを称した呼び名。更にそれぞれにファンクラブがあり、この学園に通っている女子であれば必ずどこかに所属しているのが当たり前なほどである。もちろん私は入っていないのだが。そしてここからが問題。実は私の通っている学園のファンクラブ所属生徒の第一の理念は彼らに個人的に関わったら徹底削除である。どれだけの美少女でも、だ。
「終わったわ…。」
「ねえー、大丈夫だよ。どんなに不自然な人がいてもボクら守護者が守るから。プリンセスのみはやっぱり専門さんがつかなくちゃ!ん?ぽかんとしてるけど・そーいえば、いってなかったなぁ。ってことで付け足しちゃお。今日からボクら一緒にかえるよ。かわりばんこだけどね」
「そういえばいってなかったな。」
「確かに」
「嘘でしょ…。」
帰り道そんなイケメンと帰ってたら、私は絶対に学校の中で孤立である。何が大丈夫なのか。本当に意味がわからない…。
こうして私の地味子人生は十四年間の年月をかけて、幕を閉じました。
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