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「それじゃ、今日がみんなにとって最高の夜になりますように! かんぱーい!」
「カンパーイ!!」
私の掛け声に合わせて、その場にいたメンバーが各々のグラスを掲げる。拍手が起こる中、ペコペコしながら自分の席へとついた私は、大きく息を吐き出してから、ビールの入ったグラスを手に取った。
「別に待ってくれなくても良かったのに。みんなとっくに揃ってたんでしょ?」
「いやいや何を仰いますか! お前がいないと場が締まらんだろ」
「やーだ磯貝くん分かってるぅ! でも息切らして来た人に乾杯の音頭取らせるってどうなのよ。しかも席にもついてない、杯も持ってない到着直後なのにさ。こういうのは幹事がやるもんだと思うんだけど」
「メー子だって幹事みたいなもんじゃん、女性陣の頭数そろえてくれたし。それに、こうやって目立っといた方が男どもの印象に残りやすいっしょ」
まあ、私ありきで開いてくれた飲み会みたいだし、その心づかいはありがたいっちゃありがたいんだけど。
「私、席順終わってない?」
隣に座っていた祐奈のコソコソと声をかけると、祐奈はやわらかい笑みを顔に貼り付けたまま小さくうなずいた。
長テーブルを挟んで店の奥側が女性陣、入口に近い方が男性陣、という並びになっている。まあまだ開始直後だし、おたがい緊張しないようにするための“とりあえず”な割り振りであることはなんとなく理解できるけれど、それだったら私の向かいの席には今日いちばんのイケメンを配置するとか、そういうとこまで気を回してくれても良くないか。
なんで彼女持ちで私にはいっさい可能性のない磯貝が、私の前の席を陣取っているのか。
「磯貝くん」
「ハイハイ?」
「そろそろ席替えしない?」
「ぶはっ! 気がはえーよお前! まだ始まって1分も経ってないのに」
「いや、だってさ……!」
「まーまー、落ち着けって。そこ、席一つ空いてるだろ」
指し示されたのは、私の斜め隣にある、いわゆるお誕生日席だ。テーブルセッティングがされていなくて気付かなかったけれど、覗き込んで見るとちゃんと椅子が用意されている。
「今日いちばんの若手が来るんだ。俺はほぼ面識ないんだけど、中道が声かけてて……。おーい、中道、遅れてくるヤツ誰だっけ?」
「ケン先輩、それ聞くの今日で3回目っすよ! 俺の1個下の桜庭です、桜庭律」
「あーそうそう、それそれ。中道の話だとまあまあの男前らしいわ。俺はあんま記憶にないんだけど」
でも、それだと人数が合わない。だって磯貝は5人って……。
と、そこまで考えてやっと気づいた。磯貝は5人用意すると言っただけで、自分を含めるとは言ってなかったんだ。
「まあ、そりゃそうか。アンタ彼女持ちだもんね」
「何の話?」
「こっちの話」
「ふーん……?」
磯貝はいぶかし気に首を傾げた後、まあ頑張りたまえ、なんて機嫌良さそうにビールを呷った。もう1人来るならこの席順でもいいか、と、私も振り上げかけた拳をいったん収めることにして、泡が少しへたったビールに口を付けた。
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