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「こっから5分くらい歩いたとこの店で10人枠取れたから。フツーの居酒屋だけどいいですかね?」
「ぜんぜんオッケーです。それにしても磯貝くん、飛び込みでよく席取れたね。けっこうな人数なのに」
京野さんが感心したように言うと、磯貝は得意げに笑って、自分の腕を数回叩いて見せた。いい腕をしているんだというアピールをしているらしい。
「このお店は雰囲気あって素敵だったけど、今くらい酔いがきた状態なら逆に居酒屋の方で良かったかもね」
「あれ、光山さんもう酔ってるんですか? 歩けないなら、俺の肩お貸ししますよ」
「ありがとー。でも私、島田くんのことおぶって歩けるくらいにはまだまだ余裕よ」
「はいそこイチャイチャしない! 店の前だし、さっさとハケよう」
磯貝はそう言うと、私たちを先導するように歩き始めた。
「ねえ磯貝、10人って……後から1人来るんじゃ」
「それ含めて10人。俺は抜けるからさ」
「えっ」
「彩から連絡来たんだよ、さっさと帰ってこいって」
もうすでに組み合わせができている中で磯貝が抜けるということは、このまま二次会に行けば私は一人寂しく末席で酒をすする羽目になるということだ。たぶん私がそんな風にポツンとしていたら、みんなが気を遣って輪に入れてくれるんだろうけど、そのせいでみんなのチャンスを潰してしまうことになったら申し訳なさ過ぎて立つ瀬がない。
磯貝は話し相手としては機能しているんだし、せめて桜庭くんが来るって確定するまではいてほしいのに。
「桜庭だっけ、あいつ中道に遅れるって1回連絡寄越したきり、音沙汰ナシらしいんだよな」
隣を歩く磯貝が、不満げに呟く。私はそれに応えることなく、ため息だけをこぼした。
ああ、やっぱり。私ホントそういう展開になることが多いんだよなあ。こうなったらいいな、は叶わなくて、こうなるのだけは避けてほしい、は避けられない。いつも何か損なことだけが実績になっていくようで、さっき祐奈に慰められて落ち着いたはずの心は、今度は波立つのではなく静かに冷たく凍っていっている気がした。
「何だよ、寂しそうな顔してんなぁ」
「別にー。せっかく期待したのに、つまんないなーって思っただけー」
「まあ、ちゃんとしたメンツ揃えらんなかったのは俺の責任だしな。仕方ない、お詫びも兼ねてこの後も」
「ごめんなさい、遅くなりました!」
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