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 本来なら遅れて来た桜庭くんの紹介をして、1軒目で話をしていない者同士で席順を組む流れになるんだろうけど、いつも先頭に立ってそういった指示を出す磯貝は既に帰った後だ。  仕切る人間がいないせいで場がごちゃついてしまわないか、という心配は無用だったようで、店内に入ってすぐ、私たちは予定調和のように男女2人ずつに分かれて席に着いていた。 「普通だと思いますよ、俺。誰にもそんな風に言われたことないですし」 「うそだ。それはない、絶対ない。だって私、こんなにずっと眺めていたいくらいにいい顔なんて見たことないもん」 「ええー……。もしかしてアスカさん、酔ってます?」 「酔ってない! あっ、でも桜庭くんの魅力には酔ってるかもね!」  言ってから誰か私をぶん殴ってくれという思いが頭を駆け巡る。いわゆる激しい後悔というヤツだ。こんな時代錯誤のセクハラめいた言葉、いい歳のおじさんでも言わないだろう。 「ごめんね、なんか……こんなのしか残ってなくて」  時間通りに来ていれば、もしかしたら他のお姉さんたちといい感じになれたかもしれないのに。まあそれは私のせいではないけどな、という思いを隠しつつそう言うと、桜庭くんはキョトンとした表情で首を傾げた。 「そんな、アスカさんが謝ることじゃ……。俺、ここのから揚げけっこうおいしいと思うし」  んん? なんだろう、この肩透かし感。この子は一体なんのことを話して…… 「いや、私が”こんなのしか残ってない”って言ったのは、いま君が最後の一つをかっさらったから揚げのことじゃなくてね」 「あ、すみません、食べたかったですか?」 「……ううん、もういいの。桜庭くんが幸せなら、私はそれで充分お腹いっぱい」  ホントは食べたかったけど、という言葉はしまっておき、テーブルに肘をついて桜庭くんの横顔を眺める。  もぐもぐして動くほっぺたが可愛い。黒ぶちのメガネがぱっちりおめめの魅力を引き出してて可愛い。長めのマッシュヘアと言えば聞こえがいいけど、たぶん近所の適当な散髪屋さんでヘアカットしてもらった感満載の髪型が可愛い。  なんか機能が凄そうなごつい腕時計が、シャツの袖口からチラ見えどころか存在感バキバキで異彩を放っていて、純朴そうな感じとは相反する雰囲気過ぎて似合ってなくてそれも可愛い。 「ねえ、桜庭くん」 「ふぁい」 「あ、ごめんね、返事は飲み込んでからでいいから聞くけど、その腕時計は誰かからもらったものだったりする?」  何気なく尋ねただけだった。その腕時計が本当にあまりにも似合わな過ぎて、つい気になったのだ。こういう機械感強めなガジェットが好きなのか、それとも就職祝いで親戚とかからもらって仕方なく着けているのか。  ちょっとした話題提供も兼ねての質問をしたつもりだったんだけど。
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