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「泊め……るわけないでしょ」  まさかこの人、宿なしか? さっきの事故も、寝床をタダで手に入れるために体を張った、とかじゃ……。 (いや、それはない)  自分で思いついた説をあっさりと却下する。泊めてもらうために命賭けで車に飛び込むなんて、メリットとデメリットの比重がいくら何でもおかしすぎる。 「勘弁してくれよー。もうすぐ夜明けのとこ追い出されたら俺、かなり悲惨なことになるんだって」 「悲惨て……何だかよく分からないけど、初対面の男性を泊めるような度胸のある人間じゃないから、私」 「何もしないから! ぜったい何もしないからさあ!」 「そう言って何もしない男はいない!」 「それは言えてる」  認めるんかい。 「あ、でも今日は大丈夫だと思う。昨日ヤッてきたとこだし」 「あなたの性事情なんて知りたくもないんだけど」 「いやいや、マジで安心していいよ。今んとこお前に何の劣情も感じてねーから」 「それはそれで腹立つな」  泊まりたくて必死なんだろうけど、何も感じないとか、私がまるで女として終わってるみたいな言い方やめてほしい。 「じゃあどう頼めばいいんだ? 俺、また朝っぱらに放り出されて火傷しながら帰るの嫌なんだって」 「火傷って……何なのそれ。お宅、ヴァンパイアか何か?」 「そうだけど」  冗談のつもりで言った言葉をあっさり認められて、思わず眉間にしわを寄せる。 「何だよ、気づいてなかったのか? 俺、さっきお前に咬みついたのに」 「咬みついたって……え、うそ」  マモルの口元に耳を寄せた時の鈍い痛みを思い出して、首元に手をやる。実家を出発する前にはなかったはずの痛みが走り、私は表情を歪ませた。 「な、なんで」 「俺、血をくれって頼んだだろ。構わないって言ったじゃんか」  マモルは、ちゃんと許可は得た、と言わんばかりに得意げに私を見下ろしている。 「二つ返事で受け入れてくれる子ってあんまいないんだよな。大体めっちゃ説明して何とか口説き落とすんだけど、お前はあっさり陥落してくれたからホント助かったよ」  その言葉に、いいものを拾った、というマモルの弾んだ声が頭の中で再生された。
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