或る看守の自分語り、または、奴がすべてを失うまでの物語

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 俺が看守になった理由は、いつかあの男に天罰が下って収監されたら、そのざまを一番身近に見て、嘲り痛めつけてやりたかったから。わかっている、とても不純な動機だ。  けど、やって来たのはあの男じゃなく、あの男を殺そうとした、坊やのような男だった―。         ***  あの男が再び元首選に出馬する。その一報は、俺には大きな驚きと不快だった。  今では政治家として知られているけれど、かつての彼は親の威を借ってどうにか体裁を保っているだけの(本人にその自覚があったかは定かではないが)自称“できるビジネスマン”。そして、ライバル企業を経営する俺の両親を卑劣な方法で陥れ、死に追い詰めた張本人。  前回の敗戦で留飲を下げた俺の心は、この一報で再びざわめいた。万が一にも、あいつがこの国を率いることが二度と起きてはならない。選挙戦で彼の不利が伝えられれば安堵し、逆転しそうと聞けばやきもきする。そんな毎日が続いた。  そんなとき、事件が起きた。そう、あの暗殺未遂事件が。ほんの偶然で命拾いした、まったくもって悪運の強い奴の支持率は、この一件で相手候補を上回った。  ああだめだ、それだけは―!  再びじりじりと奴の支持率が下がるまで、俺は眠れない日々を過ごした。相手候補の支持率が再び上回りようやく安堵したとき。またも、暗殺未遂事件、そして、支持率向上。  なんてことだ、俺は思ったが。  神の采配か偶然の悪戯か。犯人が、俺のいる監獄にやって来たんだ。
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