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     □  怜奈を刺した包丁を持って、風呂場へ行った。冗談みたいに赤い液体が、べっとりと付着していた。  栓を占めて浴槽に入り、蛇口を捻る。足が冷たい。もう冬だ。お湯の方がいいかな。……関係、無いか。  このまま生きていたって、ロクな人生にならない。  そもそも、もう生きる目的なんて、ありはしない。  大半の人が何も成し遂げないまま、惰性で生きて、死んでいく。だったら、そんな一生だとしても、あたしは最高の幸せを手に入れたかった。  生まれた時からだいたいのことは決まっている。顔、特技、両親の年収、出身地、きょうだい、親戚……。それをもとに、手に入れられるものは限られている。そこには努力なんて、ほとんど関係無い。  それでも、あたしの望んだ幸せは、手を伸ばせば届く高さにあったはず。  それすらも叶わないなら、生きてたって、意味が無い。これ以上生きる意味なんて思い浮かばない。  浴槽に身体を沈める。冷たい。全身に震えが走った。手首にそっと包丁を当てて、そのままゆっくりスライドさせた。あたしのものなのか怜奈のものなのかわからない血が、ポツリポツリと水に落ちる。切った手首を構わず浴槽に浸けた。途端に赤く染まり、気味の悪さを覚える。諦観よりも恐怖心が勝ってきたから、目を閉じた。  そうだ。見なければいい。嫌なものは、もう見なければいい。見なくていいんだ。  最期に、あたしでも掴めたかもしれない夢に、想いを馳せた。
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