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(おいら、死ぬのかなあ)
路地裏の地面に横たわり、少年はうめいた。
胸に突き刺さったナイフ。流れ出して、地面を濡らす血。体はしだいに冷えていく。
日のかげってきた路地裏には、ほかに人影はない。仮に通る人がいても、関わり合いになるのを恐れて、知らんぷりをするだろう。
(ろくでもない人生だった……)
自分の、十四年の人生をふりかえる。
母は、彼を産んですぐに亡くなったという。
父は、彼が物心つく前に、家を出ていった。
ろくに学校にも行かず、悪いやつらの使いっぱしりをさせられた。命令されたことをうまくこなせなくて、いつもアニキたちからこづかれ、怒られた。
そうして、ドラッグを売りに出た今日、頭のイカれた客に刺され、ブツも有り金も、みんな持っていかれた、というわけだ。
(ああ、神さまよ)
と、少年は愚痴をつぶやいた。(もうちっと、マシな人生にしてほしかったぜ)
そうして少年は息をひきとった。
魂が体から抜けだす。
そこへ現れたのが、背中に白い羽をはやした、ふたりの天使だった。
「さあ、来なさい」
ふたりで少年の手を取って、天空へと持ち上げていく。
「どこへつれていく気?」
「決まってるだろう、天国さ。お前のろくでもない人生を、神は憐れまれたのだ」
「あ、待ってくれよ。天国ってのも、その、悪くはないけど……」
「なんだ?」
「おいら、あんたたち天使の下っ端で使ってもらえないかな?」
「なんだと? これはまた、変わったことを言うやつもいたもんだ」
「その……おいら、生きてるときは、悪いことばっかりしてきたから、罪ほろぼしに、人に感謝されることをやってみたいんだ。どうだろう? ダメかな?」
少年は、自信なさそうにふたりの天使を交互に見やった。
天使たちは返事をせず、むつかしい表情を浮かべて、互いの顔を見つめるのだった。
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