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3
「おい、ぼうず、さっきの女の子、お前の知り合いか?」
天界にもどると、先輩にそう訊かれた。
誰のことかは、すぐにわかった。あのお屋敷の少女だ。
「は……はあ……」
先輩が不機嫌そうなので、つい口ごもった。
金の粉は、まんべんなくまくように、と言われていた。でも、あの少女には、たくさんまいてしまった。そのことをとがめられるんだろうか、と緊張した。
「どういう知り合いだ?」
「あの……昔、助けてもらったことがあって、その……」
「そうか。あの女の子の上に、やたらと金の粉をふりまいていたな」
ああ、やっぱり叱られるんた。少年はあわてて謝った。
「すみません。恩返しに、と思って、つい……」
「恩返しねえ」
「すみません。あの粉、幸運とか、神さまの祝福とか、そんなようなものなんでしよ? 昔、あの子に助けてもらったお礼に、と思って……。勝手して、すみませんでした。これからは気をつけますから」
先輩が、ギロリと少年をにらんだ。さえない中年男だと思っていたが、にらみつける顔は怖かった。
が、先輩はじきに視線をはずした。
「いや、教えなかったおれが悪かったな。実はな、ぼうず」
と、説明したところによると――。
あの金の粉は、人間に不幸をもたらすものだというではないか。不運。災厄。病苦。金の粉をかけられた人間は、そういった、もろもろの災いをこうむることになるのだという。
「なんで?」
少年は先輩に詰め寄った。「なんで、そんなものを?」
「不幸になった人間てのは、神さまにすがりつくだろ? 神さまにしてみりゃ、自分を頼ってくれるのは、うれしい。というか、頼ってくれないと、自分がいる意味がなくなっちまうんだよ。だから、金の粉をふりまいて、人間を不幸にするんだ」
「え……?」
少年は口をあんぐりとあけた。理解が追いつかなかった。「それじゃ、まるで……まるで……」
うまく表現できなかった。
先輩が、代わりに言った。
「それじゃまるで、医者が病原菌をばらまいて、患者をつくっているみたいだ、って言いたいのか?」
少年は無言で、首をこくこくと縦にふった。
「ああ、まさに、その通りだな」
先輩は苦いものを呑んだように、顔をしかめた。あきらめの色が、そこにまじっていた。
「そんな……神さまが、そんなことをするなんて……」
「神さまだって、人間だって、おんなじなんだよ。世のなか、そんなものなんだ」
「だけど……」
心のなかいっぱいにモヤモヤとしたものが広がっていた。とても割り切れるものではなかった。
「あっ」
突然、少年は声をあげた。
自分が、ことさらにたくさんの粉をふりかけた、あの少女のことが気になったせいだった。
少年は立ち上がった。先輩に背を向け、天界を飛び出した。後ろのほうで、先輩がなにか叫んだようだったが、聞く耳を持っていなかった。
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