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あなたの背中を見送るそばから会いたくなるの。一昨日だって、あなたの一部みたいにずうっとピッタリくっついてたのに。
式まで、あと――右手の親指から順に折り曲げて、左手の親指、人差し指まで。深く溜息をつく。あと何日、何時間、何分何秒? 同じ家に暮らせばこんな気持ちも落ち着くと思うんだけど。待ちきれなさを持て余して、白いソファから立ち上がった。私の家はリビングもキッチンも眩しいくらい皆白い。庭から切った紅いバラが映えるから。一輪挿しに咲き誇る大輪に微笑みかけて、とっておきのハーブティーを淹れる。温度計と砂時計を使って丁寧に。白いカップを満たした透きとおる黄金色からのぼる香りをいっぱいに吸いこんで、心地よくソファに戻った。
「人間、変われば変わるものよね」
リビングのガラス戸越しに、秋の午後の陽が照らす庭を眺める。男なんてほとんど誰でもよかったのに。スマホを開けば、一人一枚ずつ写真が記念に残つている。私には、数が増えれば楽しいコレクションみたいなものだった。とっかえひっかえしたって胸が痛むこともない。
でも。あなたに出会った。
コレクションの証拠写真をきれいさっぱり消去した。あとはあなたのものばかり。あなたを集めてしまうの。
『仕事中?終わったら電話して』
ささいな留守電の録音も。
『おやすみ』
どんな短いテキストメッセージも。
会えない時間もあなたを眺めて私をあなたで満たしたい。
鎖骨の間には、シルバーのハートのチャームのペンダントが輝く。あなたがくれた瞬間から片時も離せずに、箱もショッパーもそのままとってるの。笑っちゃうでしょ。
リビングの白いチェストの引き出しを開けると、きちんと納めてある。他にも、初めてもらった出張のお土産のチョコレートの箱から全部。だってあなたがくれたもの。あなたが選んだ、あなたが触れた。飾りについた量産品のリボンの繊維の一本すら、すべて大切なあなたのカケラ。
何をもらっても嬉しかった。この胸に最高潮のときめきを、この身に最大級の悦びを。あなたがくれた。
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