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俺はひょんなことから、ご先祖さんとの恋愛が成就できずある捨て台詞を吐いて、とある山に眠り続けていた天女の女難の呪いを受けて、青春を一切謳歌できない十七歳の早川瞬一です。
「その捨て台詞ってなんだよ?」
鉄板の上に乗ったお好み焼きの焼き加減を気にしながら、向かいに座る岡野始は聞いてきた。
「貴方の子孫にいずれ貴方の面影に似ている男児が生まれた時は、わたしはその子孫と婚姻を結びます。 そして、その男児は私が現れるまで女難に見舞われるでしょう、だったかな」
今は亡き大叔父の早川寿一郎さんから語られた話を、瞬一はよく覚えていた。
自分が本当に呪われているのか、早川グループお抱えの占星術師の次期当主とされる幼馴染の空井龍之介にも相談したところ、確かになにかに憑かれていると断言され、あまりのショックに気絶までした。
「不謹慎だけど、あれはウケた」
事の顛末を始にあらかた話したあとに、隣に座っていた龍之介があの日のことをすでに笑い話の域にしているので、瞬一は苦虫を潰した顔をみせた。
「はぁー、おまえたちが羨ましいよ。俺はただ勉学に励むだけの高校生活だよ」
これから青春を楽しんでいる隣の幼馴染に怒りが湧いて、瞬一はお好み焼きを切り分けるヘラの動作が強くなった。始はただただそれを苦笑いでみている。
「実は瞬一の呪いが解けるまで、俺も恋愛禁止だと父に言われている。辛いのは俺も一緒 」
お好み焼きを口に入れる龍之介のテンションがだだ下がりになったのがわかった。
暫し沈黙が流れて、
「仲間ができて良かったねぇ」
重くなりそうな空気を少しでも明るくしようと始の顔は笑っていたが、フォローにもなっていない発言に鉄板の焼ける音だけが虚しく聞こえてくる。
ガラガラと店の引き戸が開いて、中村太一がタイミングよく入店した時は、始からしたら救世主の登場だった。
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