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小広い場所には、背を丸めた影が肩を寄せ合いしゃがみこんでいた。こいつらには、オレがとびっきりのプレゼントをしてやろう。
「ここなら、兵隊もわざわざ来ないよ。おにいさん、大変だったね」
オレを旅人と勘違いしているようだ。もう大丈夫と安心したのか、頬に血の気がさしていた。まず、こいつの不安をふくらませてやろう。
「おまえ、親はどうした」
肉親の安否を気遣え。一人助かった自分を責めろ。
小僧は束の間、目をふせただけですぐに笑顔を見せた。
「ぼくに親はいないよ。近所の人たちに面倒をみてもらってるんだ。心配してくれて、ありがとう」
オレは予想外の返答に絶句した。
おい、オレに礼を言ってどうする。おまえたちから、なにもかも奪おうとしているオレに。
小僧が人の輪に入るのを見届け、オレは闇夜にまぎれた。
空へと昇り、雲に腰をかけて村を見下ろした。兵の列は途切れない。村を通りすぎ、先へ先へと進む。数知れぬ剣が向かう地では、この村とはくらべものにならない惨劇が生み出されるだろう。当然、かぎつけた悪魔が殺到する。魂の奪い合いだ。
だがこの村は違う。悪魔はオレだけだ。オレが、生き残った小僧たちの命をにぎっているのだ。
月の放つ光が、目にまっすぐ刺さるほどに空気が冷えている。
村人どもはふるえていた。ふるえながら、天に祈っていた。
ただ、希うしかできない人間とは、なんと無力なのだ。神はなぜ、このような弱い者に愛を注ぐのか。
兵にみつかることを恐れ、火も起こせずにいる。ここで凍え死にさせてもいいが、もう少し生き延びさせたほうが、絶望も際立つ。
「おい」
小僧を岩かげに引っ張った。
「祈っても無駄だ」
「え、そうなの。流れ星に願いごとを言うと、願いが叶うって聞いたよ」
「つまらん迷信だ。それよりも、これを使え」
「どうしたの、こんなにたくさんの毛布」
悪魔の力をもってすれば、たやすいことだ。
「オレは行商人なんだ。村に荷が残っていた」
「いいの? ぼく、お金を持ってないんだよ」
「気にするな。他にもほしいものがあったら言え」
人間は欲深い。子供とはいえ、こいつも人間だ。毛布だけでは満足するまい。
さらに要求があると待ちかまえていたら、小僧の首は横に動いた。そして笑う。
「親切にしてくれて、ありがとう」
また礼を言うのか。オレがありがとうと言いたいくらいだ。
この毛布は、おまえたちの舌により苦い不幸をのせるための撒き餌だ。よくぞ食いついてくれた。
あざけりの笑みをうかべようとした。頬が寒さでこわばっていたのか、うまくいかなかった。
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