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2021年・十月 ①
「親父、飯は?」
「昨日の夕飯が冷蔵庫にあるから、温めて食べなさい」
「また冷飯かよ。食う気なくすんだよなあ」
部屋着を腰でひきずりながら、裾を踏んだ敬一郎がキッチンに降りてきた。
「敬、今日は十七回忌だから食べたら墓参りに行く支度しろよ」
「そうなん。えっ、忘れてた。ってか無理なんですけど。おれ、朋美と夕方からKING GNUの野外イベントに行く約束なんだよ。もうチケットも取っちゃってるし」
リビングは四十畳吹き抜けの構造で、壁一面を占めるのはジグソーパズル。パズルに向かい手中のピースを嵌めあぐねていた。新たなピースを拾い集めては、膨大な拡がりを見せるパズルの伽藍堂を、こつこつと埋めていく作業に明け暮れている。
「あー無理。ほんっと無理。絶っ対無理だって!」
「四年前から決まっている事だろ」
「だって、おれ、母さんのこと何も覚えてねーもん。行っても何も変わらねんじゃね?」
お前なぁ、耳をつまんで助手席に放り込んでやろうか?
「はぁ」と、ため息しか出せない。
仕方がないことだとわかるから、忸怩たる思いに身をつまされる。
今年で十八になった敬一郎は長子の面影を色濃く映していた。
俺が黙って取り合わないでいると、敬も異を唱えることを辞めた。思い詰めたような顔で俺から極力顔を逸らし「わかったよ」と、口重く返事をして会話は途切れた。
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