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2021年・十月 ②
「親父、あのパズルを完成させたら、何があるんだ?」
助手席で二時間塞ぎ込んでいた敬は、サイドミラーに映り込んでは後退していく六インチの景色に顔を向けている。
「あれは手紙のような物なんだ。お前の母親の長子からのな。完成させないと、どんなメッセージなのか俺にもわからないんだ」
「ふーん。仕事以外の全てを棒に振って。十七年も有るか無いかわからないメッセージに命を賭けて。人生、逆走してんじゃねーの? このサイドミラーの景色みたいに。後ろばっかりに気を取られてるからそうなるんだよ。ほんと、おれにはわからねーよ」
不貞腐れた態度だ。当たり前の反応か。男手ひとつで育て上げたこともあり、幼少期から償い切れないほどの苦労や我慢を強いてきた。長子の血が入っているからか、聞き分けがいい性格に時折り心を痛めることもある。
それでもいま、当たり障りのない単純な言葉で説明をしたら、当たり障りのない単純な結果が形成されるのだろう。単純な言葉では説明できない何かが、常に喉につっかえて答えを濁してしまう。
「おれ、母さんから優しい言葉や、愛情なんてもらったことねーし」
こうして反抗するのは、素直に受け入れる必要があることと、自身を守るために逃げていいこととの選択に迷い、どちらを取るべきなのかと苛立ちを抱えているからだ。
間違ってもいいから、とした安易な選択を取らない芯の強い子だとも知っている。
俺は、自らが望む通りに生きているという罪悪感を抱えながら、残されたメッセージを求めるがために、大切なものを多く取りこぼしているのだろうか。
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