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不屈の努力
明くる日、パズルの完成を心に誓った。
ざっと計算して二百万ピース。
眩暈を起こしそうな莫大な量を前に、胸にふつふつとした原初の炎が灯る。
これは長子と繋がれる唯一の鎹。あいつは絶対に何かを伝えたかったはずだ。
わかっている。これは直感だ。感傷だ。ただの幻想だ。都合のいい独りよがりの妄想だ。
それでも、長子がこれを送った意味を何よりも知りたい。共に歩んだかけがえのない日々の答えを知らなければいけない。
自宅の一角を仕事場に変える。保育園から連れ帰った敬は目を離さない場所においておく。
さて、パズルの完成図がわからない。なので先ず、色で仕分けをした。真っ白なピースが数十万もあり、続いてピンク、紫、青、緑、黄色。仕分けた箱は数十種類におよんだ。
パチリ、パチリと昼夜を問わず、のべつ幕なしパズルのピースをつなげ集めて、気がつけば五年が経過していた。 敬は小学一年。
しかし、出来上がったパズルはまだ十分の一にも遠く及ばない。 パズルの外周部から色合いを頼りに内側へ。少しずつ内側へ。一ピースがあるべき場所にぴたりと一致するのを奇跡に感じる。果てしなく先は長い。
ネットニュースではウズベキスタンで行方不明になった方々の遺族が、国連に向けて日本政府に再度捜索を求める嘆願書を募る旨の、人権デモ報道を流していたが、目の前のパズルに集中した。
歳を重ねるごとに一年が短く思える。六年という年月は過ぎてみれば他愛なく、生活は一定で変わり映えはそれほど感じない。敬は地元の公立中学に進学した。
近ごろ、このパズルの完成図が何であるか朧げながらわかってきた。
これは長子の絵だ。
たぶん、ウズベキスタンを離れたあと、二人で諸国漫遊した二カ国目のニュージーランド。南島のクライストチャーチとマウントクックの間にある、テカポ湖。ホワイトブルーの湖面は天候により七色に表情を変え、星空鑑賞の名所でもあり、オーロラが見られることもある。
何よりそこは、ニ人で未来の約束を誓いあった場所だ。
俺には確信めいた予感があった。
が、どうしてもわからないこともあった。色味が違うのだ。実際に二人で旅行した現地の景色と、完成に向かう目の前のパズルの色味が圧倒的に違う。
どうしてだろう。
俺は絵画を知らない。だからパズルが完成しても、長子が敢えて送ってくれたパズルの真意を理解できないのかもしれない。
絵画の勉強に本腰を入れることにした。
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