遊び相手

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もう、ナナミはお絵描きに飽きたようだ。 天使ごっこをしたいとお願いされた。 僕は両手を羽のように動かし、軽やかにパタパタと音をたて、飛ぶ真似をしてみせる。 すると、ナナミがベッドから起きあがり、両手をめいっぱい動かして僕と同じ動きをした。 その動きをお互いに見ていたら、なんだか凄く楽しくなってきて、ベッドに僕達は寝転がりながら、大笑いした。 ナナミのはじけた笑い声が部屋に響く。 ナナミがあまりに元気よく笑ってみせるから、僕は一瞬だけ現実を忘れた。 もしかしたら、このまま病気が治って本当に元気になるかもしれないって。 そんな明るい希望が僕の心に優しく、広がっていった。 ナナミが元気なら、ずっと天使ごっこできる。 ナナミを笑顔でいっぱいにしてあげられる。 もし、このまま天使ごっこを続けたら、僕は本物の天使になれるかもしれない。 死神なんて止めて、天使で居たほうがずっと面白くて楽しいんじゃないか。 いつもは人間の死を馬鹿にして笑うのが、楽しみだった。 でもナナミと一緒に居ると、今までそんなことをしていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。 もう死神なんて、嫌だ。 ナナミが笑顔のまま幸せになって欲しい。そのために僕はずっと天使で居たい。もう、死神なんて止めてしまおう。 優しい天使になるんだ。 「ナナミ、ずっと天使ごっこしたいか?」 「うん、天使さんとずっとやりたい!」 僕の問いかけに、ナナミが明るい声で返事をした。その姿は病気なんてしてるように見えないくらいに思えた。 けど顔を見ていると、はしゃぎ過ぎたのか疲れが表情にでてる。ナナミが小さな身体で病気と必死に戦っているんだ。 あんなに楽しかったはずが、急に冷たい現実が押し寄せてきた。ナナミは病気なんだ。 こうしてる間にも、少しずつ死が向かってきている。 「……ナナミはもし病気治ったら、何したい?」 「おとなになって、まんが家になりたい」 ナナミは微笑みながら、そう言った。 小さな手をぎゅっと握りしめ、真剣に僕を見つめてくる。 「まんが家になって、みんなを笑顔でいっぱいにするの、みんなに幸せになってもらう」 まんが家か。なりたいよな。 僕はナナミが大人になり、一生懸命まんがを描いている姿が見てみたい。 きっと素敵だろうな。 今よりも、もっと絵が上手くなってさ。 また、僕を描いてもらうんだ。 今度はイケメンにしてもらうか。 ……大人にならないで死ぬなんて、嫌だろうな。
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