楽園

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 ある時から、この部屋で暮らす子供の人数が増えなくなった。與羽さんが現れなくなったのだ。  カズトはいつも以上にイライラし、リカは何度も髪をとかしてリボンを整えていた。いちばんおかしくなっていったのはケイタだった。  くっきりとした二重瞼の下にある瞳の輝きが薄れ、壁にもたれかかったまま言葉にもならない何かをぶつぶつとつぶやいていた。誰よりも與羽さんを慕っていたのはケイタだった。 「どうせあいつも、他の大人と変わらねーんだよ」  頭をがりがりと掻きながら、カズトは言った。タトゥーの模様が、以前よりも歪んで見えた。 「俺達を裏切りやがった」 「やめてよ!」  ケイタが叫ぶ。 「與羽さんがそんな事するわけない」 「じゃあ、あいつがここに来ない理由を考えてみろよ」  白い空間に墨汁を垂らされたような滲みが拡散していく。誰ひとりとして答えられなかった。  どれだけの時間が経ったか分からない。この部屋には時計がないのだった。それどころかテレビもラジオも、スマートフォンさえ。日差しの入らない空間で、ただあたし達はそこに存在していた。 「帰りたい……」  またリカが泣き始める。 「ママ……、ママぁ、ママぁ」  不協和音が何もない白い空間の濁りを増やしていく。あたしは一気に記憶の渦に襲われた。
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