楽園

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 あたしは一人ぼっちになった。警察だと名乗った男の人達が入ってきたことにより、白い部屋の空気は掻き乱され、ケイタもカズトもリカも他の子達も部屋の外に飛び散り、その後のことは分からない。  下品さを煌びやかさで隠したネオンや看板。どこからか沸いては消えていく人々。多くの物で溢れているのにどこか無機質に感じる空の下。ここは與羽さんに拾われた場所だ。家を出た後、行くあてのなかったあたしはこの汚い繁華街に佇んでいた。  多くの雑音が重なり合って、正確な音階を拾えない。あの部屋に戻りたいと思う。何にも干渉されない、白くて静かな四角い部屋。 『次のニュースです』  人々の蠢く交差点の一角にあるモニターで、ニュースが流れている。 『本日午後五時頃、家出をした少年少女を匿い殺害をしたとして、誘拐罪や殺人罪の疑いで行方を追っていた自称自営業の男が逮捕されました』  画質の荒い大画面に映し出されたのは、與羽さんだった。二人の男に乗せられた車の後部座席でうつむいているけれど、間違いなかった。 『男は来島寧斗(ねと)容疑者、二十九歳。来島容疑者は二年前より繁華街にたむろする十数人にもわたる若者を連れ去ったのち、所有するマンションに監禁し、殺害をしたとして罪を問われています』  黒い髪も黒いコートもあたしの知るままなのに、画面に映る與羽さんの雰囲気はひどく暗い。画面を通じたアナウンサーの声が、無関心な人々の間をすり抜けてアスファルトに落ちていく。  ――僕はね、アキ、君達に夢を与えたいんだ  出会ってすぐ、名前を訊かれたので正直に答えると、與羽さんははにかんで何度もあたしの名前を呼んでくれた。呼ばれるたびに存在を証明されたようで嬉しかった。この人になら何をされてもいいと思った。お母さんの彼氏のように、あたしを買った男達のように。でも、與羽さんはそうしなかった。  ――アキみたいな可哀想な子供達は他にもいる。僕はそういった子達を集めて、夢の場所を作っているんだよ  與羽さんの連れていってくれたマンション。そこは、痛みや苦しみのない楽園だった。 『来島容疑者は、間違いありません、と容疑を認めているとのことです』  それきり、街中から音が消えた。あたしはふわりと浮かびあがる。行き場所を失くした魂の集う楽園を求めて、旅に出るのだ。 Fin.
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