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「あれは、コゲラだよ」  そして、このあいだはごめん、と彼女は頭を下げた。今日は白のトレーナーに黒いパンツ姿だった。髪は一つに束ねられている。 「いや、わたしこそ。いきなり逃げてごめんなさい」  わたしの胸のモヤモヤは、新しい人物との出会いによってしぼんでいった。 「……あたし、田口マリっていうの。この近くの中学校に通ってる。中学二年生」 「わたしは、野原ユズ。もしかして、桜ヶ丘中学校?」 「うん、そうだよ。野原さんも?」 「そう! 同じく二年生。クラスは違うよね?」 「あたし一組」 「そっかぁ、わたしは三組なんだ。クラスが遠いと、分からないね」 「そうだね」  ひと通り挨拶をすませると、わたしはずっと気になっていたことを尋ねた。 「どうしてそんなに鳥に詳しいの?」 「それはね、これを毎晩読んでるから」  そう言って、マリはジャージのポケットから小さな本を取り出した。 「それは、野鳥図鑑?」 「うん」  今どき、本で調べる人っているんだ。 わたしは困ったことがあったらスマホですぐに調べてしまうから、本を活用する彼女が少し不思議だった。  でも、なんで本なのか聞くのは少し失礼な気がして、正直に聞くのはやめた。  その後、わたしたちは毎週土曜日にあの遊歩道でよく話した。  鳥のことだけではなく、学校のこと。部活。習い事。  はじめて会ったときに感じた不信感は、すっかりなくなっていた。  そしてわたしたちはお互いの家を行き来するくらい、仲良しになっていった。
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