運命の一冊に残された指紋

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 高校二年の文化祭で、おれは清川に内緒で、ヒトミに告白した。  そしてこっぴどく振られたのだった。  しかしそれからも、ほかの女なんてまったく興味が持てなかった。  そのせいか、おれが書いたミステリはよくコンテストの採点で「女心が分かっていない」「異性との交流経験の絶無さが伝わってきてつらい」と評された。  正直、今でも二日に一回はヒトミがおれの夢に出てくる。  顔色を失ったおれをよそに、清川が浮かれ顔で言った。 「いやあ、ヒトミとつき合いだしてから、僕の書くキャラにも血が通ったっていうの? ヒトミって実はけっこう積極的な性格でさ、いろーんなことを経験させてくれたよ!」 「へ、へええ……そいつは、意外だなあ……」  ヒトミのやつ、おれの前ではほとんど能面みたいなのに。もっとも、そこがいいんだが。 「そういえば、ヒトミが言うにはさあ、凄くしつっこい男につきまとわれてるんだって。田沼くんはなにか聞いてる?」 「いいや」  初耳だ。  これでもおれは振られた身だ。常に一歩距離を置いて、近づき過ぎないようにしている。 「なんでも、ヒトミが高校の時に告白されて、思い切り振ってやったのに、今でも未練がましくいやらしい目でちらちらちらちらこっちを見てくるんだってさ。 直接なにかしてくるわけじゃないんだけど、遠目に見つめられてて気持ち悪いんだって。 ヒトミが能面みたいにむっつりした顔してても、平気でいやらしい顔をしてつきまとってくるっていうんだよ!  まあ、そういう日のほうが、フラストレーションの溜まったヒトミが積極的になるから、僕としてはまんざらでもないんだけどね! イヒヒ!」  そのいぎたない笑顔に、全身の血が逆流する。  殺す。  こいつ、殺してやる。  おれはそう心に決めた。  もちろん良心は咎める。後悔もするだろう。  しかし、少なくとも、すべてにおいて清川の後塵を拝したみじめな人生を、死ぬまで送り続けるよりはましなはずだ。
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