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考えろ。考えるんだ。うまい殺し方を。
あ。そういえばこいつ、ミステリの研究用に、こっそり毒物を押入れの奥に隠し持っていたな。
「なあ、清川。おれが今日ここに来ることは、誰も知らないよな?」
「うん」
「フフフ、じゃあ今日は、お前の運命の一冊が華々しく世に出る前の、前夜祭だ。そこの酒屋でいい酒を買ってくるから、二人で飲もうじゃないか」
まさしくこの一冊は、おれとお前の運命を大きく変えてしまうだろう。おれは栄光の、そしてお前は終焉の運命だがな。
おれは近くの酒屋で、小ぶりなウイスキーを買って戻った。
そして二人で酒をあおった。
清川は酒に弱くて有名で、すぐに顔が真っ赤になる。
「そうだ清川、ちゃんとこの小説のデータはとってあるのか?」
「あるとも、ほら」
清川はノートパソコンのロックを外し、中のフォルダを見せた。
「おお、あるな。バックアップもあるのか?」
「うん、こっちのUSBにね」
おれは清川のグラスに、さっきトイレを借りるふりをして失敬した毒を注いだ。
薬瓶に触れる時は、指紋がつかないよう、ちゃんとハンカチ越しにしてある。
それから五分後。
おれが酒に混ぜて飲ませた毒で、清川は死んだ。
もう動かない清川の手に瓶を握らせ、指紋をつける。
そして、ノートパソコンが再びロックされないうちに、おれはやつの小説のデータを消した。
USBのほうも、確実に消去した。
清川の運命を決定づけた作品は、この世に唯一、分厚い紙束としてだけこの世に残されたことになる。
「……おれのものだ」
そう呟いた時、ドアがノックされ、ドアノブががちゃがちゃと鳴り、おれは心臓が口から出そうなほど驚いた。
「清川くん? 私だけど。珍しいね、鍵閉めてるの? 開けてくれる?」
あっ。ドア越しでも分かる、この声は。
「ヒトミ……か?」
「え? その声は、ゴ……田沼くん?」
最初になんと呼ばれかけたのか引っかかるものはあったが、おれの頭脳は、この場を逃れようとフル回転を始めた。
そして、シンプル極まりない答にたどり着く。
「ヒトミ、警察を呼んでくれ! 清川が死んでるんだ!」
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