運命の一冊に残された指紋

7/7
前へ
/9ページ
次へ
「ですがね刑事さん、おれも自分の作品を盗作呼ばわりされたらたまらないなあ。そこまで言うからには、証拠くらい出してもらわないと」 「そうですよね。じゃ、その紙束を貸してください。証拠として、指紋を採取してみます」 「……あん?」 「いえね、ヒトミさんが言うには、清川さんは自作品をプリントアウトすると、必ず自分の指紋を全ページにつけてるそうなんです。 つきやすい紙を選んでいると。 つまりマーキングですね。 まあ何万字という長編作品だと、指紋って要は皮脂ですから、スタンプ捺すみたいにきれいにはいかないでしょうが、判別くらいはできるでしょう。 その枚数だとコピーも処分も一苦労です、原本としてマーキングをしておくのは、意外と盗作の備えとしては有効なのかもしれません」  そういえばあいつ、エアコンを切っていたな。汗をかいて、指紋が残りやすくするためだったのか。  しかし、だ。 「あのねえ。言ったでしょう、おれはこの作品を清川に見せたんですよ。あいつの指紋がついてるのが当たり前で、ついてなかったらおかしい」 「まあまあそれはもちろんです。一応、一応貸していただけませんか。もちろん漏洩なんてさせません」  これを固辞するのは難しいだろう。  おれは渋々、紙束を刑事に渡した。 「もう一回言いますがね、確かにそこから清川の指紋は取れますよ。 でも、おれが使っている紙は清川のものと同じ(これはたまたま、本当にそうなのだ。清川のお勧めでおれが倣った)だし、文体だっておれたちは昔からそっくりなんだ。 清川を愛するヒトミが、これは清川くんのものですと言い張ったって、そりゃ通らないですからね」 「そんなことにはなりませんよ。ちなみに、清川さんはどんなふうにこれを読んでいました?」 「どんなって、ちゃぶ台に置いて、指でめくって読んでましたよ」 「変わった格好で読んだり、なにか特別なことは?」 「なかったですね」  そして、紙束は別の警察官に渡された。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加