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「分かりませんね、刑事さん。この紙束から清川の指紋が出たら、どうしておれが盗ったことになるんです?」
「これを読んでいる清川さんは、普通に紙をめくって読んでいたんですね?」
「そうです」
「おかしな読み方なんてしていなかった」
「そうです」
「おや鑑識の結果が出たようです。……やっぱり、清川さんの指紋が出ましたよ」
「そりゃ出るでしょう! おれは何度もそう言ってる!」
「清川さんの赤い靴下、個性的ですね。失礼して、脱がせてもらいました」
「……靴下?」
「清川さんは靴下を履いていました。彼はそれをわざわざ脱いで、足の指でページをめくったりはしていませんよね?」
「まさか」
「あの作品をあなたが書いたなら、清川さんがあなたの作品を自分のものにするために、急いで素足になり、あなたの目を盗んですべてのページに指紋を残したんでしょうか?
いや、そんなことは不可能です。
それにもしやったとしたら、自殺する理由がない。あの毒で、清川さんがあなたを殺せばいいわけだから。
逆です。
あなたが清川さんを殺して、作品を自分のものにしようとしたんですね」
ようやく、おれは気づいた。
清川の指紋というのは。
「そう。足の指の指紋なんです」
おれを栄光に導くはずの、運命の一冊は。
幼友達を殺してまで手に入れようとしたというのに。
警察の手で、もうおれには届かない遠くへと運ばれていった。
終
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