天使のフィルター

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 ガタンと、椅子の音がして、シニヨンの若い女性記者が立ち上がった。 「とてもロマンチックな発明ですね」  優しいが、よく通る声だった。 「美しいおじょうさん、ありがとう」  エジポン博士は微笑み、会場は和やかな雰囲気につつまれた。 「我々は、ついに、あの夢のマシーン、天使フィルターを発明しました」  その瞬間、嵐のようなシャッター音と閃光が博士に降りそそいだ。  記者たちは動揺を隠しきれず、会場は騒然となった。 「あの、夢のマシーンを発明されたんですね」 「そのとおりです。我々は天使フィルターを完成させたのです。この発明で人類はついに、戦争のない世界、完全に平和な世界を手に入れることが出来るのです!」  エジポン博士は立ち上がると、黄金の宝石箱から、ローズクォーツの玉と銀の台座を、取り出して、記者たちに見せた。  会場にフラッシュの嵐が吹き荒れる。 「では、はじめます」  エジポン博士が銀の台座をハイマン助手に手渡すと、彼は実験台の上にそれを固定した。  会場が水をうったように、静まりかえる。 「これが天使フィルターです」  エジポン博士が、ローズクォーツの玉を、銀の台座にはめこんだ。  すると、高さ二メートルほどの、ピンクゴールドに輝く、光のハート型リングが空間に浮かびあがった。 「ワァッ!」  会場に、歓声が上がり、記者たちは光りのリングに心をうばわれた。 「この発明は天使が与えた奇跡の発明です。天使フィルターをくぐった人間は、天使の洗礼を受けた者のように、心と魂が清められ、心の闇や穢れがなくなります。そして魂は、天使の魂のように光り輝くのです」 「うおおっ」  会場にどよめきが走る。  そこでエジポン博士は、一呼吸おき、 「完成できたのも共同研究者、ハイマン君のおかげです」  と、ハイマン助手をみんなに紹介した。  会場は拍手で沸き、シャッター音が嵐のように鳴る。  すぐに記者たちは、競うように質問を浴びせた。 「凶悪な犯罪者でも、天使フィルターで心と魂を清め、善人にすることができますか?」 「もちろん出来ます。天使フィルターは、天使の愛の光りです」 「エンジェルランドの全ての人が、天使フィルターをくぐれば、王国はどうなりますか?」 「天使の王国、真の愛の王国になるでしょう」  博士は、記者たちの問いに、一つ一つ丁寧に受け答えした。
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