天使のフィルター

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「まさに天使のフィルターは愛の発明ですね」  シニヨンの女性記者が、博士を尊敬の眼差しでみつめた。 「もう、戦争や差別はうんざりです。我々の最終目標は、地球を丸ごと、天使フィルターで清めることです。そうすれば、自分の欲望のために、平気で他人や動物を傷つけ、命を奪い、地球環境を破壊するような人間たちを、一瞬で、天使の心と魂の持ち主に変えることが出来ます。もちろん、心が美しい人の魂は、より美しく光り輝き、世界中に天使があふれるでことでしょう。そうなれば、地球から戦争が消滅し、人類は永遠の平和を手に入れることが出来るのです」  エジポン博士が話し終えると、記者たちは一斉に立ち上がり、会場全体が、割れるような拍手で震えた。  この衝撃的なニュースは、またたくまに、世界中に配信され、〈エンジェルランドのエジポン博士、天使フィルターを発明! 人類はついに世界平和を手に入れることに〉という大見出しとともに、エジポン博士の禿げ頭と団子鼻の写真が、世界中の新聞の、トップをかざった。  ニュース速報が終わると、先生をはじめ、クラスのみんなが、コハクを取り囲んでいた。 「エジポン博士のサイン欲しいなぁ」 「先生は、コハクちゃんの担任で、嬉しいわ」 「コハクちゃんのおじいちゃん、凄い!」 (……)  コハクはみんなから次々と声をかけらた。 (朝、会った時に、どうして、話してくれなかったの)  コハクは、おじいちゃんに腹が立った。無性に腹が立った。天使フィルターのことを、全く聞かされてない。だから、何も答えるが出来ないのだ。  コハクは、耳を塞ぎ「わあっ」と声を上げたくなった。  その時、誰かが、コハクの手を強く引っ張った。混雑する教室から連れ出してくれた。 「コハクちゃん、大丈夫?」  イーライとアルウだった。 「ダイアンがいないわ」  コハクが、生徒や先生でごったがえす教室を、心配そうに振り返る。 「おいらなら、ここにいるにゃ」  コハクのリュックから、ダイアンが、ピコッと顔だけ出した。  三人は、混乱する教室から脱出し、校舎の裏の門から、逃げるように学校を飛び出した。  記者会見から数日後、エジポン研究所に、なんと、アンバー刑務所から天使フィルターの注文が入った。施設の人間を天使フィルターで更正させ、社会復帰させることが出来ると期待されたのだ。
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