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さっそくエジポン博士とハイマン助手は、刑務所に行き、天使フィルターを納品した。
「お願いします」
所長の希望で、天使フィルターは、施設と運動場を仕切る、大きな鉄の門に、取り付けられることになった。
「ここがいいだろう」
白衣を着たエジポン博士は、門の一番高いところを指さした。
「わかりました」
ハイマン助手は、宝石箱からローズクォーツの玉と銀の台座を取り出して、指定された場所に慎重に取り付けた。
(これで良し!)
ハイマン助手が右手を高く上げ、博士に合図する。工事が完了したのだ。
「うむ」
エジポン博士が大きくうなずく。
「お願いします」
所長もエジポン博士の隣に並び、鉄の門を見つめる。
天使フィルターで、罪を犯した人たちが、天使のような心と魂をもつ人間になったなら、王様の恩赦がおりることになっていた。
運動場には、奇跡の瞬間の目撃者になろうと、多くの記者と職員が集まっていた。
「ハイマンくん」
エジポン博士が目配せした。
「はい」
ハイマン助手はうなずき、手に持ったスマホの画面をタッチする。鉄の門にピンクゴールドのハート型リングが、美しく輝く。
「おおっ!」
運動場に集まった人々のあいだに、大きな声があがった。
「オッホン」
エジポン博士がいつもの咳ばらいをする。
「素晴らしい」
所長が思わず溜め息をもらす。
「いつでもどうぞ」
エジポン博士は、ピンと背筋を伸ばした。
「今から朝礼をはじめる。全員、運動場に集合! 運動場に集合!」
館内放送が流され、罪を負った百人ほどの人たちが、続々と長い廊下を歩き出した。
「あの美しいイルミネーションは何だ?」
人々は口々に呟き、天使フィルターをくぐって、次々と運動場に姿を現した。
「こ、これは一体どういうことだ……」
所長をはじめ、集まった職員たちは、彼らの変わりように思わず声を上げた。
「オッホン。これが天使フィルターです」
エジポン博士は誇らしげに胸を張った。
「信じられん……彼らの表情から、とげとげしさや、鋭さがない。それどころか、まるで天使にでもなったように、優しい眼差しをしている」
所長は目をこすり、幾度となく目の前の人たちを見回した。
「すぐに天使度メーターで測りなさい」
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