虹の二皿

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 二枚の皿に所狭しとケーキを並べて、席に戻った。コーヒーは食べ終わった最後の一杯で十分。フォークを手に、向かいの席に一礼した。 「さぁ、頂こう」  両方の皿に載っている、栗のプリンケーキを見比べて、自分の皿のものに、フォークを伸ばした。  栗は、今は脇にどけておく。イチゴも栗も、最後に食べる主義だ。妻は違ったが。  栗がどいた後には、栗色の表面と、真っ白なクリームが見える。コントラストが、美しい。崩してしまうのがもったいないので、生地とクリーム、両方を口に入れることにする。小さなケーキを皿に半分に割って、片方を口の中に迎え入れた。  甘い……。  ただべったり甘いのとは違う、様々な甘みを感じるのだ。クリームの乳糖の甘み、砂糖の甘み、プリンの甘み……素材から滲んで溢れる甘みと、人の技術と知識によって調整されたほどよい甘みが、今、口の中で溶け合う。  ここに、栗の甘みが加わったら、どうなるのか……!  脇に置いていた栗を載せて、残りの半分を口に放り込む。すると、どうしたことか。栗の淡い甘みも加わって、皿に彩り豊かな甘みが口の中に、いや体に広がっていく気がした。  少し歯ごたえのある栗を咀嚼しようと噛みしめると、柔らかなプリンがはじけるように広がり、生地と合わさる。スポンジが、プリンのおかげでしっとりと甘い汁を吸ったようになって、果汁たっぷりの果実を食べているようだ。  こんなコラボレーションがあるのか……驚きと感動を、ごっくんと一息に飲み干す。 「うん。後でもう一つ頂こう」  小さなケーキは、ほんのひとときの喜びをもたらし、一瞬のうちに弾け散る。まるで花火のようだ。  ケーキバイキングのいいところは、その”花火”を、幾度も幾度も味わえるところだ。 「さて、次は……」  私は、再びフォークを手に取った。
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