磨く

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 一粒の石を持ち上げれば、ずっしりと確かな質量感。  拾い上げた少し濁った赤色の石を撫でた瞬間、生ぬるい風が吹いた。そして、あの人のことを思い出す。あの人はいつだって私に呪いを掛けるばかりで、私は、嫌いで、離れたくてたまらなかった。  そのくせ、愛されたかったんだ。大切だよって、言われたくて、抱きしめられたかった。そして、それが叶わないことに、赤ん坊のように地団駄を踏んで、駄々をこねた。 「あなたは、歌がヘタだから。人前では歌わないようにしなさい」  いつだって、そんな呪いばかりが私を蝕んでいた。私はダメでグズで、ノロマで、可愛くない子。自分を責め立てることばかり上手くなり、誰かに頼ることはうまくならなかった。 「あなたのために言ってるの。他人は伝えてくれないから」  先回りして、私を守るためだと常々言っていた。私はそれが不満でしかないけど、世の中の真実だと信じきって疑わなかった。世間を知るまでは……
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