磨く

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 一歩踏み出せば、大きな石に足を取られる。じんじんと痛むつま先を押さえて、大きな石を睨みつけた。この石は、ポケットには、入りそうにない。  なんとか両手で持ち上げれば、薄い緑色をしていて、まるで生きてるみたいにぷるりと揺れる。植物みたいな香りと、透き通った色に、顔を近づけてしまった。  不意に映り込んだ自分の顔に、目を背ける。醜くて、可愛くない、私?  本当に?  世間一般の可愛いではないし、美しいとは思えない。それでも、私の顔を私は好きだし、可愛いと思える。 「本当に?」  石から聞こえてきた声は、鼻声で濁ってる。それでも、嫌いになれないのは、私の声だからだろうか。低くて、聞こえやすくて、なかなかいい声じゃないか。  爽やかな香りがあたり一面から、ふわりと顔って、目を細めた。私の大好きな柔軟剤の香り。青々しい緑が咲き誇って、花が甘い香りを散らしたような……  ぱちぱちと瞬きをすれば、懐かしい記憶ばかり、目の前で流れては消えていく。いつのまにか、ポケットはパンパンになっていた。  ずっしりとした重さの下半身を、引きずるように、光の方を目指す。手元の重たい、やけに大きい石を抱き抱えたまま。  漠然とわかっていた。  この石が何かを。  そして、全部捨てたくないなと思うものだってことも。  掛けられた呪いくらい捨てれば良かったかもしれない。そしたら、もっと軽やかに進めたかも。それでも、それすら私の一部だから、捨てられない。ううん、捨てたくない。  ポケットの中で、石がぶつかるごろごろとした音を聞きながら、一歩一歩進む。差し引きしても、良い旅だったと思う。  辛いことも、嫌いなことも、たくさんあったし、もっと良いやり方はあったとも思うけど。やり直せるとしても、同じ道を選びたいくらいには、満足してる。  ぎゅうっと目の前の石を抱きしめて、うんっと小さく頷く。  すぐそこまで迫ってる光は、優しくて、あたたかい。満足した? とまるで、問いかけてるように感じてるのは、さすがに考えすぎがもしれない。  それでも、小さく言葉にしてみた。 「満足したよ」  だから、光の前に大きな緑色の石を置く。そして、ポケットから拾い集めた石を、その上に積み上げた。崩れそうに揺らぎながらも、なんとか保っている。  それすら、私みたいで、少しだけ微笑んでしまう。緩んだ唇に触れて、「嫌いじゃないよ」ともう一度口にする。  あんなに嫌いだったけど、今は、嫌いじゃないよ。  繰り返してみれば、すとんっと胸のつっかえになっていた呪いは、浄化されたみたいだ。不思議な光に目を閉じて、胸いっぱい空気を吸い込む。冷たいような、あたたかいような不思議な感覚だ。  
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