episode1. 相変わらず

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episode1. 相変わらず

「お、やっぱ沖口も来たか!こっちこっち~」 同級生である後藤が手を上げて呼ぶ。 高校の頃から変わらない黒縁のメガネをかけていて、委員長をやっていた時代を思い出す。 「お前、全然変わってないのな」 『はっ、そっちこそな』 卒業以来会っていなかった奴らとも会えるということで、俺は会場へと足を踏み入れたわけだが 本音を言えば、あわよくば、疎遠になっていた好きな人に再び会えるのを期待していた。 けど、会場に着けば、その気持ちは逆転していた。 どうせ好きな人が来ていたところで、進展すらできないだろう、と分かっていたからだ。 なにせもう10年以上も拗らせているのだから。 軽いため息をついて、空いている後藤の隣に座る。 注文パネルを持った後藤に、なににするよ?と聞かれたので、とりあえず生で、と答えてコートを脱ぐ。 それを席の背もたれにかけた。 すると、俺と同じようにぞろぞろと人が集まってき、俺と後藤に久しぶり~!と挨拶をしては席に座っていく。 アイツは…来てないみたい、だな。 そう何処か安堵したとき、後ろから聞き覚えのある声が俺を攻撃した。 「あー!あっちゃんてばもう生飲んでる!!」 ギクッ なんて効果音がつきそうなくらい、身体が跳ねた。 動揺を悟られないようにゆっくり振り返れば、そこには俺の想い人がいた。 高校時代一緒に過ごした親友、磯村ハルだ。 15年ぶりに会うハルは、あの頃と変わらず可愛らしくて、それでいて大人っぽく、今の俺には直視できないくらい眩しかった。 そんな俺の気持ちを知るはずもないハルは、あのときと変わらないテンションで話しかけてくる。 背が伸びて大人っぽくなったなとか、髪も染めたのかとか、その髪色も可愛いと言いたいのに。 「お前こそなんだよその髪、いかにもプレーンなハルって感じ?」 「ほんっとあっちゃんって全然変わんないね…てかプレーンって言うなし!」 口から出るのはいつも喧嘩腰の言葉ばかり。こんなの上手くいくわけがねえわ… まあまあ、と周りが宥めてくれる。 別に俺もコイツと喧嘩がしたい訳じゃない。 ただ笑顔を見てたい、だからこそからかってしまうときも多くて、困る。 ハルは俺の前の席に座り、頬杖をついてにっこり笑って周りの奴らと話し始める。 (ああ…くそっ…俺だってもっと話してたいのに…) そんな思いを掻き消すように、ジョッキに入った生ビールを喉に流し込む。 少し遠くから、おめーら相変わらず仲悪いなぁと声がして、反射的にそっちを見る。 声の主は、クラスのムードメーカー的存在で、俺や後藤とも仲が良かった富永。 なんなら富永とは、今もたまに宅飲みしながらゲームしたりする仲であり、俺がハルに片思いしていることを知っている唯一の人物だ。 確か今は、奥さんと子宝に恵まれて幸せな家庭を築いているんだとか。 それこそドラマみたいで、感心しちまう。 それに引き換え俺は、目の前で女子にチヤホヤされて嫌な顔一つしないハルに無性に腹が立って、生のおかわりをする。 惨めな野郎だ。 本当に、なんで俺はまだここにいるのか、わかんなくなってくる。 ちょっとは、いや、だいぶ期待してたんだろう。 ハルとまたこうやって会える日を。 そんな俺に水を刺すように言ってくる 「あっちゃん一気に飲み過ぎだよ!」 「おー……お子ちゃまは黙ってろ。お前なんてどうせ1杯飲んだだけで赤くなりそうだしな?」 ああ、違うだろ! こんなことが言いたいんじゃないだろ?! 「もー怒った。だったら僕も生3つ!!」 俺の言葉にムキになったのか、自然に注文係になった後藤に向けてそう言うハル。 俺も対抗心と、これでハルと話せる!という期待から、さらに後藤に追加注文をする。 「望むとこだ、俺もナマ3つ飲んでやるよっ!」 『お、おう…大丈夫なのか?そんなに飲んで…』 いいんだよっとハルと俺の声がシンクロする 「てめ、被せんな!」 「それはあっちゃんでしょ?!」 それに対し、富永が愉快そうに口を開く。 『はあ、こりゃまた競い合いが始まりそうだな…』
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