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episode2. 抑制
数分後、二次会行く人っという話になったときには、ハルに至っては机に頭突っ伏して寝てるし。
酒に強い俺ですら、調子に乗って何杯も呑んだせいか、二次会に行けるほど頭は働いていなかった。
ということで、まだどちらかと言えば意識のある俺がハルを家まで送ることになり、店の前で他の奴らが二件目に行くのを見送った。
酔い潰れているハルとタクシーに乗ると、運転手にハルの住所を伝える。
発信してから数分が経った頃、眠っていたはずのハルがむくりと体を起こした。
「起きたか?もう他の奴ら二次会行ったから…」
俺がそう説明しても、全く返事が帰ってこない。
妙だと思い、隣にいるハルの顔を確認すると、それは今にも吐きそうな人間だった。
「す、すみません!やっぱここで大丈夫です!!」
運転手にそう言って、車を止めてもらい、料金を払うとすぐにハルを連れて車から出た。
ハルの腕を自分の肩に回して抱える。
「おい、しっかりしろ」
今度こそ目が覚めたのか、俺から離れて壁に手を着く。
「あ…っちゃん…?うっ…おえ…」
「ったく…ちょっとそこら辺でしゃがんで待っとけ。近くのコンビニで水と袋買ってくっから」
近くのコンビニは……あそこだな。
俺はハルを置いてコンビニに駆け出した。
そして、水と袋、それから少し大きめのタオルを購入してハルの元へ急いだ。
戻ってくると、ハルは路地に座り込み、口元に手を強く押し付けながら肩で息をしていた。
俺が近づくと、顔を上げる。その顔は蒼白で冷や汗もかいていた。
俺はハルの背中をさすりながら、ペットボトルの水を口に近づける。
すると、少し躊躇った後、ハルは俺の手からペットボトルを奪い取り、それを一気に半分ほど飲み干した。
大丈夫か…と思って、買ってきた袋を広げると、口元に持っていく。
そして、俺が袋を広げて構えているのを見ると、またも申し訳なさそうな顔をするが、もう吐く寸前まできていたのだろう。
すぐに袋の中に吐瀉物を吐き出した。
ビニール袋のガサガサとした音が止むと、俺はその袋を近くのゴミ箱に入れにいった。
戻ってくる頃にはハルも落ち着いたようで、ほんと助かった…あっちゃんありがとうと笑顔でお礼を言ってきた。
「本当に世話がやける、まあ、ムキにさせた俺にも原因はあるかもだけどよ」
なんだかいつもより、柔らかい言葉が出るようになった気がした。
酒のおかげか?
まあ、言葉の節々は悪いが。
しかし、ハルはそんなこと気にせずに口を開く。
「あっちゃんがいてくれて良かったよ」
「お前一人で帰ってたらあのままタクシーん中で吐いてたかもしんねえしな」
「それもそうだけど…今、傷心中だったから…一緒にいてくれて助かった…」
「は?傷心中?」
「まあ……うん。恋愛の傷って言えばわかりやすいかな」
「お前、恋人いたっけ?」
俺がそう尋ねると、ハルは苦笑いしながら首を縦に振った。
「なんだ、またクズ男に引っかかったのかよ」
「そ、そんな言い方…っ!」
「懲りねえなお前も」
「だって……好きになっちゃったんだし、仕方ないでしょ……」
なんでだろ、無性にコイツにムカついてきた。やべえ
「はっ…だからお前アレだろ?女でいう︎︎"︎︎尻軽女︎︎"︎︎なんだよ。そうやって高二のときも悪い男や女に騙されて、なんで学習しねぇかな」
思ってもないことがポンポン出てくる
「尻軽って……言い方酷いよ…っ」
「事実そうだろ?前の男にも散々言われたんじゃねえの?」
「っ!!」
ハルは唇を噛んで俺を睨んだ。
「はっ、図星かよ」
「あっちゃんには関係ないでしょ」
ハルはそう言って、俺をどかすと一人で歩き出した。
「おい、そんなふらついてるのに一人で帰す訳ねえだろ。車もう一回拾うぞ」
「……もういいよ、ほっといてよ」
そう言ってまた歩き出そうとするハルを俺は腕を掴んで引き止めた。
「おい、ハル」
「あっちゃんみたいなさ、恋愛で一度も悩んだことがないようなスペック高いイケメンには分かりっこないよ!!」
ハルが大声を出すと、通行人が何事だとこちらを見てきた。
俺は咄嗟にハルの腕を掴んで、路地裏に隠れた。
そして、気がつけばハルを壁に追い詰めていた。
「お前、さっきなんつった?」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
ハルはそんな俺を一瞬怖がったように見えたが、すぐにまた目がキッときつくなる。
「あっちゃんは……恋愛に悩んだことがないんでしょ?だから……っ!」
俺はハルのその言葉にプツンと何かが切れた。
「ざけんじゃねえ…こっちはてめえのせいで15年間脳みそも人生も狂わされてんだぞ…っ!!」
俺はハルを壁に押し付ける
もうこうなりゃヤケだ、15年間必死に隠してきた本音をこいつにぶちまけてやりてぇとまで思っていた。
そしたらお前どんな顔するよ
驚くか?
高校の頃、お前にアプローチできないストレスを、お前と雰囲気とか顔が似てるヤツと遊んで発散してたって知ったら引くか?
お前と同じゲイだって知ったら
お前のことがずっと好きだったなんて言ったら、困らせるか?
まあ、今ここでそんなこと言えりゃ、こんなに月日は経ってないわな。
「意味わかんない…あっちゃんのバカ!」
俺が迷ってると、ドンッと胸を押されて、俺が体制を崩した間に、ハルは逃げるように走り去っていく。
「ハ、ハル!」
ハルに押されて尻もちをついたおかげか、俺はやっと冷静さを取り戻した。
(ったく、何してんだよ俺は…あー!くそっ!!)
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