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episode5. 独占欲
と、いうことだったのに
「まさか沖口もいるとわな」
「そりゃこっちのセリフだっつーの!なんでお前がここにいんだよ」
待ち合わせ場所のカフェに入ると、なぜかそこにはハルだけでなく、後藤の姿があった。
「で?こりゃどういうことだ」
三人で席に座ると、ハルが心底嬉しそうに話す。
「いや、実はさっきそこでたまたま会ってね!なんと後藤くんもカニカニのファンだったんだよ~!!」
「あーね…てかこれ、俺いる意味あるか?」
「そ、そうなっちゃうよねやっぱ…」
「あぁ、沖口はカニカニ興味無い感じ?」
「まあ、こいつに勧められてアニメ見てはいたけど、グッズ集めるほどでは……」
何だこの雰囲気。
すっげえ一戦感じるんだけど
ここまで来て、ハルとデートできると思ったから来たのに、なに?
こいつら2人で仲良くカフェでオタ活するんか??
「そうだね、あっちゃん…!僕が昨日無理言って誘ったわけだし、帰りたかったら全然…!!」
「ここまで来たら帰らねぇよ、俺に気使う暇あったらメニュー制覇すっぞ」
「あっちゃん……っ!!」
キラキラと目を輝かせては嬉々とした表情を浮かべるハル
「なんだ、実は沖口もカニカニハマったのか?」
その横でニヤっとしながら俺に訊いてくる後藤に「違ぇわ!」とつっこむ。
そこに丁度ウェイトレスさんが水とお絞りを持ってくる。
俺たちはメニューと睨めっこをした後、食べれる分だけの注文をした。
「全制覇は無理かもだけど、このカニカニカレーは食べたい!」
「あとこっちのカニカマ丼もよくないか?!」
「わっ!可愛い!頼も頼も!!」
2人は大いに盛り上がっている。
かく言う俺は、目を細めてメニューと睨めっこをしながらなににしようかと頭を悩ませる。
(つーか、アニメのモチーフがカニなだけあって、カニしかねぇな…意外と美味そうだけども)
「じゃ、俺はこの…カニカツカレー?にするわ」
「…って、それカニカニくんが街の生贄になろうとするあのシーンの再現じゃない?!」
「なっ、正しくそうじゃないか!!」
「えなにそれグロ、他のにすっかな」
「もしあっちゃんが食べれなくても僕と後藤くんが責任もって食べるから!注文しよ?!」
「そ、そう。てかあれってそんなグロアニメだったけ」
そんなこんなで各自の注文を済ませ、数分が経った頃。
食欲を唆るカレーの匂いと共にメインディッシュが運ばれてきた。
「うわ!超美味そう!!」
「早く齧り付きたいな」
「でけぇな」
2人も目をキラキラさせながらそのカレーを眺めていた。
ウェイトレスが去っていくと、三人揃っていただきますと一言。
食べようとスプーンに手をかける。
隣の二人があまりにも幸せそうにそれを頰張っているのを見て、俺も思わず喉を鳴らした。
そして、意を決したように一口掬って口に入れる。
(は?うっっま…………)
カレーは程よい辛さと旨味があって、そのルーにはカニカマと卵も入っているそうで、それがいい具合にマッチしていてめちゃくちゃ美味い。
そこからはもう止まらなくなり、ガツガツと食べ進めていった。
そうして完食。
結局、1番デカかったカニカマ丼は後藤が食ったし、なんならハルも追加注文して食った。
2人は終始満足そうな表情をしていた。
まあ、こういうのも悪くないなと思う自分がいる。
「じゃ、最後はデザートで閉めますか」
後藤が言うので、デザートもあんのかと思い再びメニュー表を開く。
そこに載っていたのは
カニカニくんパフェ、カニ型プリン、カニチョコくん、の文字と写真。
ハルは早速プリンを、後藤はカニチョコくんを注文する気満々のようで、俺だけ注文しないのもあれなので
(ま、まあ、不味くはないだろ)
そう自分に言い聞かせながら注文し、しばらく待つと3つのデザートが運ばれてきた。
パフェの大きさに一瞬たじろぐが、意を決してスプーンを手に取り、てっぺんにあるカニの形をしたホワイトチョコを頬張る。
すると中からチョコソースとクリームが溢れ出てきた。
そしてまた一口、した後アイスを食べる度に、チョコとバニラアイスの甘みが広がる。
(うっま……やべえなこれ)
2人はというと、俺と同様に美味しさをかみ締めていた。
そんなとき、突然見知らぬ男が「あれ、ハルじゃん」と言って乱入してきた。
誰だこいつ、ハル呼びしてるし、知り合いか…?
とハルに聞こうとするが、明らかにハルは嫌な顔を浮かべている。
そうこうしている間に、男が自ら行った。
「ども、ハルの元カレでーす!」
やはりというかなんというか、その言葉に、一瞬時間が止まったような錯覚を覚える。
(あーこれ、めんどくさいやつだ。)
元カレと名乗った男は続けて口を開く。
「なにお前、もう新しい彼氏?彼氏とセフレで分けてたりしてな~?」
「この2人はそういうんじゃないし…僕は君と違ってそんなことしないよ…!」
ハルが否定してもギャハハと下品に笑うその内容は、先程の良い空気をぶち壊すには十分すぎた。
「キミな、元カレだかなんだか知らないが、いい加減に…」
後藤が止めようとするも、そいつはハルの肩に腕を回してベラベラと口を動かす。
「なあハル、また俺のとこ戻ってこいよ~?どーせまだ俺のこと好きだろ?お前単純だもんな」
その一挙手一投足全てが癪に障る。
今すぐにでもこいつを殴り飛ばしてやりたくなる。
気がつくと、俺は勢いよくフォークを男の目に向けて、目の中に入るすれすれで止めたていた。
男はいきなりのことに驚いたようで
ハルから離れて両手を上げて「うわ…物騒~」と冷ややかに失笑する。
俺はフォークを持つ手に力を込めて言う。
「こいつにベタベタ触んな、さっさと散れ」
心の中で『こいつは俺のもんだ』と強く考えてしまい、抑えきれない嫉妬の情が燃えるように、咎めるような視線を向ける。
だからなのか、男はひぇっと変な声を漏らして、逃げるようにその場を去っで行った。
俺は我に戻り、フォークを机の上に置くと、軽くため息をついた後、ハルに「悪い、やり過ぎたか」かと聞く。
「え?う、ううん!ただ、びっくりしちゃった…なんかごめんね?」
「謝んな。ダチが困ってたら誰でも助けるだろ」
その横では後藤が、何か言いたげな目で俺を見ていた。
「な、なんだよ後藤」
「ん?いや、沖口にしちゃ珍しいなと思ってな…」
「喧嘩売ってんのか?」
「違うし、お前は血気盛んすぎるだろ」
そして、カフェを出た後。
「じゃ、俺こっちだから。今日はありがとな!楽しかったわ」
俺とハルは後藤に別れを告げて帰路につく。
「あ、あのさ!」
突然ハルが声を出す。
「なに?」
「あっちゃんさ……今日楽しかった?」
「は?なんでそんなこと」
「いや!だって、最後にあんなことあったし、嫌じゃなかったかなって…」
嫌な気分になったのはお前の方だろうに、本当にお人好しつーか…
「まあ、確かに最初は乗り気じゃなかったけどよ。でも、お前が楽しそうにしてるとこ見れたし…あのカニメニューは案外?美味かったし俺もそこそこ楽しませてもらった。それに最後のはお前のせいじゃねえから」
言うと、ハルの頭をぐしゃっとして撫でた。
「気にすんな」の一言すら言えない自分が悔しい。
それでもお前は「ありがと、あっちゃん!」と微笑んでくるもんだから、心底安心するというものだ。
「ただ、今度は二人で行くからな。まだ行きたいとこあったら誘ってこい」
「え!いいの?!じゃあ久々に今度家でゲームしようよ…!!」
「はあ?ゲーム?」
「そうそう!…また、勝負しようよ」
「いーけど、景品は?」
「なにか用意しとく!今週の土曜とかどう?」
「いいじゃん、絶対負かしてやっから」
「そうやって毎回2勝3敗してるけどね?」
「んだと?」
「ちょ、ちょっと頬引っ張らないでひょ~!!」
ああ、良い。
俺のハルって感じ…
最近になって分かったけど、どうもこいつを見てると独り占めしたくなる。
気持ちを伝えられない分、こういう時間が1番幸せだな。
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