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渡は数秒考え込み、目を大きく見開いて叫んだ。
「裸の特異点? それを作り出せると言っているのか?」
「はい、裸で宇宙をうろうろしていては困るから、そんな存在を許さない未知の物理法則があるはずだ。それが宇宙検閲官仮説ですね。でも私のこの超能力で産みだされる特異点だけは、その検閲官も見逃してくれるようです」
空中では、もう誰の目にも見えなくなっていたが、クォークが折り重なって潰し合い、質量として存在出来なくなり、エネルギーに変換されて1点に吸い込まれていた。
華がさらに解説を続けた。
「時空の特異点は大きさはゼロ、質量は無限大。その中というべきか、向こう側と言うべきか、そこではあらゆる物理法則が破綻する。質量保存の法則もエネルギー保存の法則も意味をなさなくなり、無限のエネルギーを質量に変換する事も出来る。無から有を産みだす。そして産みだされる物は、過去にあり得たかもしれず、この先遠い未来で起こり得るかもしれない進化を遂げた生物」
華が空中に作り出した特異点は、さっきまで折り鶴だった物質の全ての質量を飲み込み、わずかにガンマー線バーストを放出した。華の声が続く。
「私が作り出す特異点は質量を吐き出すとすぐに消滅してしまうようです。その質量に形を与えるための計算をするのが星ちゃん、そして形を与える能力を持つのが宙ちゃん」
華は円筒形の容器に視線を向け、優しい声で言った。
「さあ、宙ちゃん。今度はどんな体が欲しいの?」
空中に青い稲妻のような光が走った。思わず地面に伏せた渡研の5人の上空に何か巨大な物が現れ、まっすぐ海面に向かって飛んだ。
沖合で高く水柱が立ち昇り、しぶきが渡たちの背中にもかかった。渡たちがやっと身を起こすと、華たち5人は一か所に固まって、雪と呼ばれていた義足の女性が目を閉じて祈るような顔つきになっていた。
華が相変わらず挑発的な笑いを含んだ声で渡たちに告げた。
「では、今回はこれでお暇いたします。ご活躍を期待していますよ」
5人の姿が、魚眼レンズを通したかのようにグニャリと歪んだ。次の瞬間、彼女たちの姿はふっとその場からかき消えた。
渡が茫然としてつぶやいた。
「宮下君から聞いてはいたが、この目で見るまでは信じられなかった。確かに瞬間移動、テレポーテーションだ」
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